ダンジョン攻略3
その後も危なげなく二階層を突破し、三階層に入る直前に休憩を取る事にした。
「この辺りが安全地帯のようだ、しばらく休憩にしよう。」
ダンジョンには、安全地帯という魔物や罠のなどが配置されていない空間が存在することがある。
このダンジョンの場合は三階層の入り口周辺らしいが、看板や立て札などはダンジョンが分解してしまうため、ギルドの資料や先人の教えなどでしか知ることは出来ない。
俺は手頃な岩を見つけてそこに腰を下ろすと、水筒の水に口を付けた。
周辺にはこれまでの階層では姿の見えなかった他の冒険者たちが同じく体を休めているのが見えるが、向こうはこちらを一瞥しただけで特に何の反応も示さなかった。
「本当に何も食べなくていいのか?」
「私の事は心配しなくていい。ここ数日充分に栄養を補給出来たので二、三日食事をしなくても大丈夫だ。」
グレスは街に入ってから人間の食べ物をあまり口にしなかった。
そうは見えなくても、彼女は三千年に及ぶ仮死状態の副作用で全身ボロボロの状態だったのだ。
その体を元に戻す為に大量に生きた生物の骨肉が必要だったらしい。
気絶していたので知らなかったが、俺を追い回した大型のロックボアも殆ど残さず平らげたそうだ。
それでも足りなかったらしく、日々街を出ては魔物を捕食していたようで、毎日のように複数の魔石をお土産に持って帰って来た。
その中にはそこそこの大きさの魔石も混ざっていたが、一体どれだけの量を食べたのだろう…
「まだ本調子には程遠いが、このくらいの狩りならば疲労の心配は無いな。」
「まだ強くなるのか?今でも充分に強いと思うんだが…」
現在のステータスでもAランクの魔物に引けを取らないのに、未だ全力では無いという。
彼女が完全に復活した折には伝説にあるようなSランクの魔物に並ぶレベルになるんじゃないか?
いや、そもそもグレスは既に伝説になっていたんだった…
俺たちは休憩を終えると、安全地帯を出てダンジョンの奥へと進む。
ここ三階層は、このダンジョンの常連冒険者にとっては最も旨みがある階層だ。
一、二階層よりもドロップアイテムも出やすくなり、出没する魔物も魔術を使わなくても何とか対処出来るレベルで、稀にだがレア魔物も出現する。
先程倒したジュエルビートルも三階層からたまたま迷い込んで来たのだろう。
「ここからは他の冒険者もいる事だし、魔剣の力も使わずに少し抑えめにしていかないか?」
今までの階層のようにして進めば、他の冒険者の狩りの邪魔をしてしまうかもしれないし、何より目立つだろう。
やましい理由がある訳ではないが、俺たちの平穏な冒険者生活を保つ為には慎重に行動するべきだろう。
グレスの正体や俺の魔剣の事は、知り渡ればどんな厄介ごとが舞い込んでくるかわかったもんじゃない。
最悪パーティを解散してどこか遠くの街でコソコソと生きていく羽目になりかねない。
「分かった、手加減しよう。」
そう返事をすると、グレスは進む速度を緩めた。
外套の下から何の変哲も無い短剣を取り出し、これ見よがしに構えて歩き始める。
今までは素手で魔物を瞬殺していたが、流石にそれは常人離れしている事がバレてしまう。
せめてものカモフラージュとして市販の短剣を購入しておいたのだ。
「せい。」
現れた魔物に、ワザとらしく声を出して短剣を振り下ろす。
魔物は声を上げる間も無く真っ二つになった。
「加減が難しいな…もう少し力を抜くか。」
明らかに短剣のスペック以上の力を発揮している気がするが、もう気にしない事にする。
素手で魔物を蹂躙していくよりは現実味があるだろう。
ここから先は魔石を強化に使わずに、集めた分はギルドに持って行く事にしよう。
魔剣は効果さえ使わなければただの装飾の多い剣に見えなくもないが、魔石を吸収させている所を見られてしまえば怪しまれてしまう。
剣術スキルのレベル上げにも丁度良いし、実力だけで戦ってみるとしよう。
万が一があってもグレスが助けてくれる。
もはやどちらが先輩なのか分からないが、それが一番効率的なのは事実。
冒険者の先輩としては情け無いが、それもパーティの利点と割り切り、俺は自分の立場に危機感を覚えながらも三階層の攻略に乗り出すのだった。