ダンジョン攻略2
俺たちは一階層を最短ルートで難なく突破すると、二階層へとたどり着いた。
一階層ではドロップや宝箱の収穫はなかったが、グレスがすれ違いざまに魔物を捻り上げて行ったので随分と魔石が集まった。
心なしか魔石を吸収した魔剣の輝きが増しているような気がする。
「やはり二階層も変わり映えはしないな、ここも最短ルートで行こうか。」
グレスは止まる事なく突き進んで行く。
俺は二階層以降には行った事はないが、このペースだとかなり深くまで潜れそうな気がする。
少し奥に進んだ所でグレスが立ち止まり、魔物を発見したという合図を出す。
グレスが指した先には、ロックスパイダーというEランクの大きな蜘蛛の魔物が這っている。
「よし、じゃあ俺の魔剣を試してみるか!」
魔石を充分に取り込んだ魔剣は、俺の意気込みに呼応するように発光した。
なんだか感覚的にやれるような気がする。
「やあっ!」
感覚が導くままに魔剣を振るう。
すると刃の先から人の頭程の大きさの火球が飛び出し、蜘蛛の魔物に直撃して発火した。
魔物は耳障りな鳴き声を発しながらのたうち回り、何度か痙攣すると動かなくなった。
「で、出来た…それも魔禁の制約下で使えるなんて…」
今の威力から察するに、下級火魔術くらいの威力なら連発が出来るようだ。
あのザロク丘を割ったような威力は、余程大きな魔石が手に入らない限りは使えないのだろう。
「なかなか便利な代物じゃないか、後衛を頼めるか?」
グレスはそう言いながらまだ火の付いた魔物の亡骸に腕を突っ込み、熱を持ったままの魔石を取り出してこちらに放った。
「あつっ!まだ熱いぞ!グレスは平気なのか!?」
「このくらいなんという事はない。その剣から出る炎程度なら、私にあたったところで火傷はせん。誤射に構わず遠慮なく剣を振るうといい。」
下級火魔術とはいえ、直撃してもなんともないなんてどんな耐性を持ってるんだ?
そう言えば出会った時も炎で熱された地面から平然と出てきていたんだっけ…流石は三千年間飲まず食わずで生きていただけの事はある。
そんな事を思っているうちにもグレスはまた魔物を倒したらしく、魔石をぽいぽい放り投げてくる。
普通に渡してくれればいいのにと心の中で愚痴りつつ、このスタイルが一番無駄が無いと頭では納得しながら、ずんずん進んでいくグレスを追いかける。
やはりパーティメンバーがいると全く違うな。
最も、グレス程の仲間なんてそう簡単には見つからないだろうが。
あの時死ぬ気でロックボアから逃げ回った甲斐があったというものだ。
「リフ、あれは何だと思う?ギルドの資料にあったレアな魔物のようだが…」
ようやく止まったグレスに追い付き、その先にいる魔物を見る。
その大きなコガネムシのような魔物は、暗闇でキラキラと輝き、壁の隅でじっとしているようだ。
「あれは…多分ジュエルビートルだ、倒せば確実にドロップアイテムが手に入るレア魔物だ!逃げ足が速いから静かに、こっそり近づいて仕留めよう…ってあれ?」
「捕まえたぞ、これでいいか?」
いつのまにかグレスの手には、俊敏な筈のジュエルビートルが抱えられていた。
その細くしなやかな手脚をシャカシャカと虚しく振り回している。
「あ…うん…普通の魔物と同じ方法で倒せば良かったと思う。」
「わかった。」
グレスは頷くと、ジュエルビートルを乾いたパンのようにバキリと真っ二つにした。
すると途端に足元に宝箱が出現した。
こんな簡単に倒せる魔物じゃないんだけどな…
「罠はないようだな。リフ、開ける役は任せたぞ。」
「それじゃあ遠慮なく…おお。」
期待に旨を膨らませながら箱を開けると、そこには形の整った魔石が鎮座していた。
「純魔石だ…やったな、これは大当たりだ!」
「ふむ、それも魔剣の強化に使ってみたらどうだ?」
グレスにそう促されるが、純魔石は質の良い魔石としてはもちろん、宝石としての価値も高く、売れば結構な額になる。
低級冒険者だった俺には勿体ないという思いが頭に浮かぶが、今は魔剣の強化の可能性を優先すべきだと思い直す。
「よし、挿れるぞ…」
未練を断ち切る思いで、素早く魔剣に純魔石を吸収させる。
すると魔剣は一際大きな輝きを放ち、唸るような音と共に俺の体に力が漲るような感じがした。
「おお…!なんだか強くなった気がする!」
早速ステータスを確認してみる。
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リフ Lv:9
《E級冒険者》
種族:人
HP23/30
MP20/24
攻撃力:14 (+10)
防御力:10 (+10)
魔力:35
俊敏:60
幸運:32
【特殊技能】
火魔術 光魔術 剣術 俊足
【パーティメンバー】
グレス
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レベルはグレスから流れた経験値や自力で倒したロックスパイダーの経験値で上がったのだろうが、特殊技能に火魔術が追加された他、攻撃と防御に補正が入っている。
どうやらこの魔剣は珍しい魔石を吸収すると、新しい力を発揮するようだ。
これからの可能性を思い浮かべると、冒険者としての好奇心と期待で胸が熱くなる。
「グレス、この魔剣にどんどん魔石を使おう!手伝ってくれ!」
「ふふ、元気があって何よりだな。私に任せておけ。」
グレスは笑いながら肩を竦めると、更に奥へと進んで行った。
溢れ出した好奇心に触発され体に力が漲ってきた俺は、さっきよりも駆け足でグレスの後を追いかけるのだった。