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孤独のE級冒険者

初投稿です。

 

「よし、今日の分はこれで終わりだ。」


 俺は引き抜いたばかりの薬草の根に付着している土を払いながら呟く。

 最近18歳になったE級冒険者である俺ことリフは、華のない採取依頼を日々続けていた。


 E級冒険者と言えば、ようやく駆け出しであるF級をを卒業し、討伐クエストやダンジョン攻略が解禁される。

 大抵の冒険者はここでパーティメンバーを集め、各々の目的に沿って旅立つのだが、俺は昇級から半年の間一人ぼっちである。


 断じて人付き合いが苦手という訳ではない。

 その理由というのが、E級のバッジを受け取ったその日の内に浮かれたままダンジョンの一階層に潜った際、ある魔剣を拾ってしまったのだ。


 魔剣というとそう簡単に手に入るものではなく、最も安価な物でも金貨数十枚以上、中堅以上の冒険者が数年かけて手に入れるような武器である。


 そんな身に余るようなものを偶然にも手に入れてしまった初心者が、それを目当てに脅されたり事故に見せかけて殺されてしまう事も珍しくはない。

 そうなってしまうのを恐れて未だパーティメンバーを決めかねているのだ。

 ただ、この魔剣には致命的な欠点がある。


「まさか何の効果もないなんてなあ…」


 そう、魔剣とは名ばかりの特殊効果が発動しない剣だったのだ。

魔力を込めると確かに魔剣に流れていく感覚があるので魔剣なのは間違いないが、魔力が通るだけで特に何かが起こるわけでもなく、これではただの剣と変わらない。


 初めてのダンジョンでとんでもないお宝を手に入れてしまったと舞い上がっていた俺は、期待外れの性能にがっかりしたものだ。


 しかし魔剣は魔剣。

 価値が無い訳でもなく、売ってしまおうかと考えたりもしたが、やはり最初に手にした物はなかなか愛着が湧いてしまうもので、自分で使う事にした。


「ま、その内どうにかなるか。」


 いつものように先の事は考えず、今日も一人寂しくギルドに戻るのであった。



 次の日、俺は依頼を受けずに束の間の休息として借りている宿のベッドに腰掛けていた。

 目を瞑り、ステータスを確認しようと念じる。


 ----------------------


 リフ Lv:5

 《E級冒険者》

 種族:人


 HP20/20

 MP20/20

 攻撃力:7

 防御力:6

 魔力:15

 俊敏:21

 幸運:32


【特殊技能】

 光魔術 剣術 俊足


 ----------------------


 頭の中に表示された内容は、ここ数日確認していたものと変わりは無い。

 特殊技能欄にある光魔術は比較的珍しい部類だが、レベルが低くては目眩し程度しか出来ず、俊足のスキルレベル以外は良くも悪くもない。


「まあ、採取依頼しかしてないんだし、強くなってる訳ないか…」


 そうぼやきながらベッドに倒れ込む、今日は一日中だらけて明日早朝から依頼を受けようと決めた。



 翌日、俺は早朝に冒険者ギルドを訪れた。

 既に依頼の貼り出される掲示板の前には人だかりが出来ているが、初心者向けの採取依頼が貼られている掲示板の前には誰もいなかった。


「今日は少し遠出してみるか…」


 普段受けている常時受付の採取依頼とは別の、氷生草と呼ばれる氷の代わりに使われる薬草の採取依頼を手に取る。

 氷生草はこの街から少し離れたザロクの丘という場所の周辺に生えている。

  この街周辺の気候は温暖な気候にも関わらず、その丘だけが異常に寒いので普通の冒険者はあまり近寄りたがらない。

 それは魔物にも同じ事らしく、寒ささえ我慢すれば比較的危険のない無難な依頼だ。


 その丘は大昔に人々を襲っていた狂った神が、極級の氷魔術で討伐されたという言い伝えがあるらしい。

 というのも、丘は季節に関わらず丘とその周辺だけが氷に閉ざされており、中心に行くほど極寒となる。

 それは氷魔術の効果が未だ続いているからだという話である。

 少なくとも数千年前から言い伝えられているらしいが、真偽の程は定かではない。

 依頼の細部に軽く目を通し、いつもの採取依頼用の受付カウンターへと向かう。


「おはようございます、今日も採取依頼ですか?」


 カウンター越しに声をかけ、こちらへ微笑みかける美人の女性は受付嬢のイリアさんだ。


「いつも採取依頼を受けてくれるのはいいですが、そろそろパーティを組んでダンジョンに挑むのはいかがでしょうか?」


 最近イリアさんは俺に遠回しにパーティを組むよう促してくる。

 彼女は新人冒険者の担当のようなもので、右も左もわからない頃によくお世話になったものだ。


「はは、いや…それは考えてはいるんですがどうにも

 都合が…」


「そうですか、冒険者の方にも色々いらっしゃいますから仕方ありませんね。」


 このやり取りも何度も繰り返したものだ。

 彼女は俺の事を心配してくれているのだろうが、こちらとしては返事に困る。

 魔剣の事を話してしまうと、E級になった直後にパーティも組まずにダンジョンに潜った事がバレてしまう。

 心配性のイリアさんに小言を言われてしまうのが億劫で、魔剣を手に入れた時にギルドの鑑定も受けなかったので今更言い出しにくい。


「氷生草の採取依頼ですか、最近ザロクの丘周辺でロックボアの目撃情報が報告されています。数は多くないようですが気をつけてくださいね。」


「ロックボア…Eランクの魔物ですか…情報をありがとうございます。群に遭遇したらすぐに逃げますね。」


 ロックボアは岩石の様な皮膚を頭部に纏った猪の魔物だ。

 単体ならばなんとか倒せるといったところだが、群ともなれば逃げるのが無難だろう。

 しかしこの辺りの魔物はあまり丘の周辺に魔物は近寄らないから安全だろうと思っていた矢先にこれか。


「リフさんはただでさえソロなんですから、本当に気をつけてくださいね?」


 念入りに釘を刺されてしまった。

 相変わらず心配してくれているのはありがたいが、耳が痛くなる言葉である。


「もちろんです、夕方までには戻るようにします。」


 俊足のスキルを使って急げば今日中に帰ってこれるだろう。

 そう宣言すると俺は早足にギルドを出た。


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