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僕は僕の秘密を知らない

作者: 石川リョク

初めてのジャンルなので、変なところがあるかもしれません。ご了承ください。

多くの方に読んでいただけたら幸いです


ジリリリリリリリリ


部屋中に目覚ましの音が鳴り響く。

「うるさいな...」

僕は頭に布団をかけたまま手探りで目覚ましを消した。

たちまち部屋に静寂が訪れる。

「もう少し寝よう...」

時計と反対方向を向くように寝返りをうった。

すると背後から声がした。


「おい、起きろよ」


誰の声だろう....

そう思いながらも僕は睡魔に負けようとしていた。


「起きろってば」


誰かが先程よりも強い口調で注意してくる。

僕は構わず寝ようと思い布団の中で縮こまった。

するといきなり布団を蹴られた。

結構な強さだったので驚いて目が覚める。

「もう...何すんだよ!」

僕は一気に布団をめくった。

するとそこには信じられない光景が広がっていた。



「「「「「おはよう」」」」」




次の瞬間僕は絶叫した。

それと同時に布団の中に潜った。

さらに布団を顔の周りに手繰り寄せてお饅頭のような姿勢をとる。


な、何が起きてる...


一体何が...


まだ夢を見ているのだろうか


布団を取り囲むように、自分とそっくりな人間が何人も立っていた。

皆無言で僕の方を見ていた。


なんという悪夢だ...


僕は全力で自分をビンタした。

「ぐっ......痛ってぇ」

痛いんだけど何これ、この夢ひどすぎでしょ...

僕はまだこれを夢だと思っている。

うぅ...

目から涙がこぼれそうになったその時、部屋の扉が開く音が聞こえた。


「テツヤ、起きたのか?」


聞き覚えのある声だ。

この声は、父さん...?


僕は恐る恐る布団の隙間から外の様子を確認する。

たくさんいる自分もどきの壁の向こう側に父さんの姿が見えた。


「父さん...!」


大きな声で叫んだつもりが、恐怖で声になっていない。


「テツヤ、起きてるのか?」


父さんはいつもの調子で僕に話しかけてくる。

僕は恐怖心を抑えてできる限り大きな声で叫んだ。

「父さんには見えないの?!」

「見えないって...何が?」

「僕がたくさんいるでしょぅぅ....」

もう涙声で語尾が潰れてしまっている。

きっと父さんには見えないんだぁぁ...

どうしよう...

そう思うと目から涙がボロボロとこぼれ落ちた。

父さんは深くため息をつくと、偽物の僕をかき分けてこちらに近づいて来た。

そして僕の横に跪いた。


「テツヤ、見えているよ.....」

父さんが小さな声で僕に話しかけた。


「これは俺がやったことなんだ...」


「えっ?」


僕は思わず布団から顔を覗かせた。

父さんはとても暗い顔をしている。

少し落ち着いた僕は周りにいる僕の偽物を舐めるように見てから、再び父さんの顔に視線を戻した。

「えっ...どういうこと...?」

僕の声はまだ少し震えている。


「事情を話してあげるから、布団から出てきなさい。大丈夫だから」


そう言うと父さんは僕に手を伸ばしてくれた。

すっかり腰が抜けてしまっている僕はそれにつかまって体を起こし、めくれてしまった布団を再び顔の方まで手繰り寄せた。


「ねぇ...どういうこと...?」


僕が落ち着きを取り戻すと、偽物の僕もこの状況に慣れてきたのか互いにお喋りを始めた。


「テツヤ、よく聞いてくれ。」


そう言われて父さんの方に向き直った。

いつになく真剣な顔をしていたため、僕は姿勢を正した。

父さんは軽く深呼吸すると信じられないことを話し出した。


「俺は今、新薬を開発している。それは、多重人格を治す新薬だ。その新薬は、飲むとその人の人格を分離する作用を持つんだ。まだ開発段階なんだが、お前はその開発途中の新薬を、市販の頭痛薬と間違えて昨日の夜飲んでしまったらしい」


僕は驚きすぎて「えっ...」と言うので精一杯だった。


そして僕は昨日の夜のことを思い返した。


昨夜はひどい頭痛で眠れなかった。ただでさえ睡眠不足なのに、これ以上悪化させたくない。

そう思って僕は夜中に頭痛薬を飲みにリビングへ向かった。

薄暗い廊下を歩いていると収納棚に見覚えのある小瓶が置いてあった。

「確かこれ頭痛薬だった気が...」

そして僕はその小瓶の中の薬を水道水で流し込み布団に戻った。




「なんでそんなところに変な薬置いておくの....飲んじゃったじゃんどうしてくれるの...」

パニックで頭は真っ白になった。


待てよ...


人格を分ける薬...?


僕の部屋でリラックスしている僕もどきを眺めながら恐る恐る父さんに尋ねた。


「ってことは...これ...って...」


「そうなんだ。これは全てお前だ。お前は、多重人格なんだ。」


え...?

衝撃の事実に再び頭が真っ白になる。


「ちょっと待って...待って...整理したい」


あまりにたくさんのことが一度に起きたせいで思考が追いつかない


「えっ...じゃあ、僕が昨日の夜飲んだ薬は開発途中の新薬だった、そして、その新薬は人格を分けるもので、今僕が量産された理由は、僕が多重人格だったからってこと...?」


自分で何を言ってるかもわからないまま説明した


「そうだ」

父さんは大きく頷いた。

今でも父さんは落ち着いている。

沢山の僕は勝手にソファに座ったり、クローゼットを開けたり、カッターナイフをカチカチやってるやつもいる。彼らはとても自由に過ごしていた。


僕が多重人格って...

こんな形で知るとは思っても見なかった...


「というか多重人格!?!?」


今になって急にその事実が衝撃となって全身に響いた。

鈍器で頭を殴られたように、ひどい目眩がする。

「俺は、お前の多重人格を直したかったんだ...」

父さんはボソッと呟いた。


「僕は多重人格...」

未だにその事実を飲み込めずに口の中に言葉がもぞもぞしていた。


「テツヤ...お前に話したいことがある」


そう言うと父さんは僕の手首を掴んで部屋の外へ連れ出した。

偽物の僕を部屋に置き去りにして扉を閉めた。

父さんはいつになく怖い顔をしていた。


「なに.......?」


恐る恐る尋ねると、僕を真っ直ぐ見つめて落ち着いた口調で話し始めた。


「テツヤ...。お前に隠していたことがある....」


僕は唾をゴクリと飲み込んだ。


「お前には妹がいたんだ。」


「えっ、妹...?」


先ほどの話のせいか、この話にはあまり衝撃を感じなかった。感覚が狂ってしまったようだ。


「お前が3歳だった頃、妹が生まれたんだ。」


僕は真剣な顔で父さんの話を聞いていた。少し沈黙があった後、急に父さんは僕の両手首を掴んだ。


「テツヤ、落ち着いて聞け.....。」


父さんの手が小刻みに震えているのがわかる。

長い沈黙の後、父さんが口を開いた。




その瞬間、時が止まった




僕は何を言われたのかわからなかった


きっと今までに起きたことの何よりも衝撃的だったからだろう


完全に硬直してしまった僕に父さんは話し続ける。

「だから、俺はこの新薬の開発をした。お前の人格を殺すために...。お前自身に危害を加えはしない。だから安心してくれ」

そう言うと父さんは強く僕を抱きしめた。


僕は全身の力が抜けてしまった

頭は真っ白のままだ。

僕は消え入りそうになりながら呟いた。


「父さん....僕を助けて...」


僕の頬を一筋の涙が流れた。

「絶対に助ける。約束する」

父さんはもう一度強く僕を抱きしめた。

そしてグッタリしてしまった僕を無理やり立たせて部屋の扉を開けた。


そこにはもう“僕”はいなかった。


「まだまだ改良が必要だな」

父さんはボソリと呟いた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


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[良い点] 薬で人格が出現する点 [気になる点] おそらく妹はテツヤが云々だろうとは分かりましたが、テツヤが多重人格になった理由が分からない。 個人的には多重人格だと、本人とは異なる年齢、容姿、性別…
[良い点] 割と斬新な設定。大量の主人公。多重に分裂したみたいに。人格の分裂はクスリで説明つくとしても、体の大量複製は説明つかないのだから、理屈より勢いやインパクト重視のはなしなのだろうと分かった。 …
[良い点] 意思が人格を持つ、不思議な感覚 [気になる点] どうやって人格をひとつにするのか [一言] 妹がいたんだ
2019/02/20 16:00 退会済み
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