10くち 1
10くち「キミを元気にいたしましゅー!キミとボクの秘密のお茶会!!」
アメリカ合衆国の活動家、詩人、歌手、女優である、マヤ・アンジェロウ曰く、「人はあなたの言ったこと、あなたのしたことは忘れても、あなたにどんな思いをさせられたかは絶対に忘れない」
バートが日本に来てから七週目の、土曜日のことだった。
マシューの通う志士頭学園高等部は既に夏休みに突入しており、週三、四回の朝から昼までの部活と、たまの生徒会の仕事で学校へ向かう程度の登校率になっている。
出された宿題を毎日予定通りに少しずつ進めては、電話が来てクラスメイトと海に行ったりもしている。
バートの提案で北海道の網走や静岡県の熱海にも旅行へ行き、日焼け少々、肌の赤みが増すことの方が多い日々を過ごしていた。
そんな日々の今日と言う日。
夏休みも中盤。遊びまわって満足し切った二人は、痛む日焼けを少しでもマシにしようと、二人で家に籠ってマシューが好きなカードゲームに興じていた。
テーブル一杯にカードを広げ、床にメモ用紙を置いている。バートはそこに更に電卓とパソコンもつけていた。
最低三十枚~最高四十枚の通常デッキと、最低十枚~最高二十枚の特殊デッキがマシューとバートの場にそれぞれ置かれている。
バートは通常デッキの上に指を添えると、そこから一枚を手札に加えた。
思い通りの手札が揃ったことで、バートの口元がニヤける。
「マシュー、これからお前を負かしてやるから覚悟すると良いぜ!」
「やってみろバーカラントォ!」
バートは手札をまとめてノートパソコンのカメラに向けた。
パソコンの画面には、通話アプリケーションウィンドウにダンケの姿が映っており、ダンケはバートの手札をパソコン越しに確認する。
カードに記載されている効果を翻訳して、ダンケは無線で繋がっているワイヤレスヘッドホン越しにバートにアドバイスをしていた。
カードテキストを一人で読んで理解するには、バートにはまだまだ時間が必要だ。
「よし!ソルジャーカード"没落貴族-ゾール-"を出陣!」
片手に四枚持つ手札からカードを一枚引き抜いて、テーブルの上に表側で置く。
発音も抑揚もまだまだ未完成で、お手本をなぞるようなたどたどしさだが、日本語で喋ることが出来ている。
恐らく、ダンケが"どう宣言するのか"すらもヘッドホンを通して教えているのだろう。
しかし、これでもブロードウェイの舞台役者。
にわか仕込みの台詞だとしても、違和感は最低限に抑えられている。