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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
9くち「一から再始のアーベーツェー!没落貴族-ゾール-とダンケ!!」
97/270

9くち 24

 

 そうしてメルナード夫妻の子として育ってきた「ダンケ・I・メルナード」は、バートラント・メリカン・日国の協力によって、北アイルランドのイングリス家を取り壊したのと同時期に、最初で最後に、自分で居場所を選択することにした。

 本人の強い希望でもあり、メルナード夫妻ですら、彼にはそれが必要だと望んだことだ。


 ダンケは新たに日国家の養子として迎え入れられ、「ダンケ・I・メルナード・日国」と名を改めて、再出発に踏み切った。

 イングリスとしての過去を消しはしないが、新しい自分を受け入れて生きてゆく。メルナードと日国と共に死んでゆく。

 その覚悟を秘めた名前だ。


 養子になった後も、ダンケは日国家よりもメルナード家にいる時間の方が長いが、誰もそれを咎めはしない。

 メルナード家にあるのが、過去の自分ひとりだけではないからだ。


 ダンケには、彼一人では報われる選択肢など一つとして無かった。

 その選択肢を与えてくれた夫妻の傍は、ダンケにとって最も大切な居場所だ。



「ミセス、ミスター、ダンケ」



 彼がこう口にすることが、夫妻にはとても特別なことで、彼が広げた両腕に夫妻は身を委ねた。

 こうして、ダンケは日国姓を名乗るようになったのである。



 …



「ダンケには皆が必要なんだ。メルナードだけじゃなくて、日国も」


 クリアブックを閉じて、バートは笑った。

 今日も彼は笑うのだった。



「僕、ダン兄に"頑張って"って言っちゃった」

「今度からは"よくやった"って言ってやってくれ」



 バートの言う通り。

 彼は頑張っている。今も全力で、報われようと前を向く努力をしている。

 幼少期から育まれることのなかった、人並みの人格形成や、人との関係の築き方を、自分なりの息の仕方を、今から学んでいる。

 奪い取られ失ってきたものを、一つずつ手に取ってゆく。


 "ダンケはもっと良くなれる。本人がその気になれば、ずっとずっと良くなる。"

 だなんて、彼を見ていない証拠だ。

 彼はもうずっと前から、その気になっているのだから。



「なあマシュー。俺もこのカードゲームをやってみたいよ」


「いいよ。そのクリアブックの中のカードを使ってもいいし、自分でパックを買うのも良いんじゃない。でも、テキストを読めないだろ?」


「読めるようになるさ。俺なりの時間が必要なだけだ」



 ダンケも同じだ。

 人とは違う時間が必要なだけ。

 自分らしい時間が欲しいだけ。

 誰もが同じ足並みで歩かなくても良い。歩けるはずがない。自分じゃない他人がいると言うのは、そう言うこと。

 二人の兄は自分のペースで前進出来て、お互いのペースを尊重し合える、偉大な存在だ。

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