表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
9くち「一から再始のアーベーツェー!没落貴族-ゾール-とダンケ!!」
94/270

9くち 21

 

 ダメだと言われ続けてきたけれど、ようやく、初めて自分を認めても良いと言ってもらえた。

 自分を認めると態度で示し、それを強く感じることが出来た彼には、本心を見せなければと思った。

 変わる為の一歩を、今ここで示さなければならない。



「助けてほしい」


「ああ」


「もうこんなの嫌だ。酷く疲れたんだ」


「そうだよな」


「変わりたい。変えたいんだよ全部」


「お前が望めばいくらでも変えられるさ」


「変われるのかな。皆みたいに笑っても、後ろ指を指されないようになりたいんだ。嫌いなヤツかどうでもいいヤツばっかりなのももう嫌だよ。人を信じてみたい。好きになってもみたいんだ。夢だってあったよ。怖いんだよ、バート。生きていくのが怖いんだ。死にたくないけど、もう生きていたくもないんだよ」


「良くやった。頑張ったよダンケ。安心していい。これから皆で、一つずつ良くしていこうな」



 まばたきをしたダンケのスモークブルーの瞳からボロボロと涙が零れ出す。

 バートは屈みこんで、袋を床下に戻し、板も元通りにする。



「俺が舞台で稼いだら、この家を取り壊すよ。ここに戻る理由を無くしてやる。外の奴らはきっといつまでも変わりやしない。でも、お前は変わるんだ。ここを捨てろ。ここから変わるんだ。ここにはなんにもないだろ」


「…」


「いいな?」


「…うん」



 ダンケが頷くのを見てから、バートは扉に手をかけた。


 これが最後だ。

 これできっと、この家に来るのは最後になる。

 それでも、名残惜しいものは何一つ無かった。

 初めから、この家には何も無かったんだ。


 目の前のヒーローがそう言っているのだから。


挿絵(By みてみん)


「おいでダンケ。大丈夫」

「…」

「俺を信じてくれるだろ」

「…」

「今も信じてくれた」

「…」

「この先も信じろ」



 思い出とは、最も信頼出来る誠実な愛である。

 しかしそれ以上に、現在のバートほど、ダンケが信頼出来るものは無い。

 今までの思い出で、良い想いなんて一つもしたことが無い。

 今ほど良い気持ちになれたことなんてただの一度も無い。

 愛されていると感じたことすら。



「うん」



 彼の導きを信じよう。これからも。


 ダンケは床に手をついて立ち上がる。

 雨ばかりのこの国は、今日、雲一つない晴天だった。

 ダンケ・イングリスは今、この家から出てゆくのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ