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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
9くち「一から再始のアーベーツェー!没落貴族-ゾール-とダンケ!!」
92/270

9くち 19

 

「俺にはプライドがある。バートラント・メリカン・日国としての名誉があるから、こんな理不尽には黙っていられない。分かるかな、すごく腹が立つんだよ」



 けれど、バートは、ダンケが彼らに仕返しが出来ないことを分かっていた。

 彼にはあまりに強烈な出来事があり過ぎた。

 たったの十二年の間に、子供にとっては果てしない十二年の間に、ダンケは傷つき過ぎて、疲れ切ってしまったのだ。

 何に対しても抵抗する気力が、もう彼には一滴も残っていない。彼は生きていこうとする力を、自分を守ろうとする前から奪われてしまった。

 お前には価値が無いといつの時も言い聞かせられていたから、信じていたはずの自分の価値を見失ってしまった。弾圧されてしまった。

 自分に失望し切り、見限っている。この世にいない方が良いと思うほどに。

 そうなるまで諦め切ってしまった存在を、もう一度誇れるようになるまで一から満たすには、途方もない時間がかかる。十二年では足りないかもしれない。

 ここまでダメになったんだ。治らないのかも。

 大丈夫に見せかけることは出来ても、綺麗に治ることはないのかも。


 古代ローマの劇作家、役者であるプブリリウス・シルス曰く、「傷は治っても傷跡は残る」のだから。


 それでも、"理不尽には抵抗する"選択肢があることを、バートはダンケに教えなければならなかった。

 それが最初の一滴になるからだ。



「いいか、自分に誇りを持て。お前は胸を張って良いんたぞ。俺はお前がとっても大事なんだぜ」


「…」


「ダンケ、自殺の覚悟が今だけのものなら、そのチャンスを最後にもう一度だけ見逃してほしい。俺の頼みを聞いてやると思って、もう少しだけ生きていてくれないか。一緒にいよう。俺のところにいれば心配事なんてなくなるぞ」


「……」


「ダンケにいなくなってほしくない」


「……いつまで」


「お前の判断に任せるよ。俺が決めることじゃないんだ。五分でも良いし半年でも良い。あともう少しだけでも生きてみて、それでもやっぱりダメなら、死んでもいいぞ。その方がよっぽど(ため)になることだってあるだろう。後の事は俺がやっておく」


「……」


「俺の頼みを今すぐ断るのも、お前が決めることだよ」



 ダンケは眼球の奥の神経が何故だか酷く痛むのを感じた。

 それから目の周りが熱くなって、言葉に出来ない気持ちでたまらなくなった。

 生きることを望んでくれるし、死ぬことも許してくれるだなんて、ダンケにとってこれほど欲しかった言葉は無かったからだ。

 メルナード夫妻はこの生き地獄の中で、ダンケに必要なものを押し付ける。

 ならばバートは、ダンケにとって、欲しいものを与える存在だった。

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