9くち 4
「今はバートの家にいるんだよね?お金だって心配はいらないんでしょ?」
「腹が鳴らなければそれでいいよ」
「じゃあこれから毎日、日本からアメリカのジェンガピザのウェブサイトにアクセスして、今ダン兄がいる住所に毎食着払いで二枚送りつけてやるから食べてよ」
「一枚でいいよ。胃にものが入るならそれで良い。でも、コーヒーはハイになれるからたくさん送ってくれて良いよ」
「コーヒーじゃお腹は膨れないよ」
食に関心が無い挙句、放っておいたら餓死してしまいそうな人間にどのようにして食事を摂らせるか。しかも遠距離で。
今すぐには難しい話だが、根底にある「味覚障害」の克服や、更なる心のケアをさせることが必要だろう。
しかし、それを治療させるには、あまりに遠過ぎる。
「肉が沢山載ったヤツにするから、とにかく脂肪をつけて。ガリガリのダン兄よりメタボなダン兄の方がずっと良いよ」
「あい分かった」
おざなりな返事をしたっきり、ダンケは黙り込んでしまった。
いつもこうだ。
自分から求めない。施されれば受ける。
やれと言われてやらない。されるがままに受け入れる。
自分に対する扱いがあまりに酷過ぎる。
けれどバートが言うには、"ダンケは充分によくやっている"なんだそうだ。
バートほどダンケとの付き合いが長くもなければ深くもないマシューには、疑問に思うしかないのが、ダンケの枯れ枝のような体躯だった。
ダンケはもっと良くなれる。本人がその気になれば、ずっとずっと良くなる。
なのにそれを拒否しているようにしか、マシューには見えなかった。
「ねえダン兄」
「なに」
「辛いだろうけど、頑張って。応援しているから」
「………」
ダンケは最後に、また目つきの悪い顔を上げると、マウスに手を付けるよりもF4キーでチャットを強制終了させた。
ウィンドウが黒くなり、パソコンの黒画面に映る自分と目が合い、マシューは溜息を吐いた。
昨年、母からの手紙で「ダンケは環境に、バートは自分に、貴方は人にセンシティブな感性を持っていると私は感じています。マシュー、貴方は人を知っているから自分のことも分かるはず。貴方のその感性は、きっと強い武器になります」と書かれていた。
「人を知っている」なんて言われても、ダンケのことなんてちっともわからない。
そのダンケに、「お前は皆の事を何も知らない」と言われたばかりなのに。
僕が人のなにを知っていると言うのだろう。自分のことも知らないのに。なんにも知らないのに。
久しぶりの一人だと言うのに、自由も何も、満喫出来そうになかった。




