8くち 19
「この趣味は、バートが来てから始めたことなんだよ」
「……そう、か」
「言う通り、バートが好きじゃないのも邪魔に思っているのも本当だ。手紙を書かなかったのも電話をしなかったのも、好きでもない相手にそんなことをしてやる必要性を感じなかったからだ」
「…そうか」
「でも、それ以上に、忙しかったんだよ。僕の生活を見ていればわかるだろ?起きて、支度して学校。帰宅したら銭湯、洗濯、食事、予習復習宿題、部活の練習、規則正しく早寝早起き。ひたすらこの生活だ。自分の事だけで手一杯だったんだ」
「そうだな」
バートは返事をするだけで精一杯だった。
さっきは自分ばかりが沢山話していたのに、今度はマシューが話してくれている。
彼が話さんとしていることがバートには全く予想がつかなくて、やけに緊張していた。
怒られる気もしていたけれど、嬉しいことを話してくれる"期待"もあった。むしろそっちの方が大きかった。
でも、やっぱりその内怒られる気も少しだけした。怒られなかった日なんて一度も無いもの。
「お前が来てからだよ。こういう趣味を始められるだけの余裕が出来たのは」
期待もあった。
希望も生まれた。
「…はあ、……つまりは、そういうことだよ」
「あ?」
「察しろよ!」
荷物を持った手でバートの頬をめいっぱいつねる。
バートには言わなきゃ伝わらないと分かっている。
伝われと思っているだけじゃ理解してもらえない。
分かりやすく、口にして伝えなければ。
分かっていても、日本の習慣に染まったマシューには、包装紙で包んでいない丸裸の言葉は、照れ臭かった。
「好きじゃないけど、腐っても家族だからな。お前がそんなに落ち込む必要は無い程度だよ。良いと思うところもちゃんとある」
「たくさんあるか?」
「あるよ。でも、お前のことは総評して、好きじゃない」
「…うーん」
「趣味は僕を構成する大事な要素だ。それを始めるチャンスをくれた。感謝してる」
「……うん」
「今だって迷惑しているし邪魔だとも思っているけれど、それが嫌だとは思わない。……もう、分かったから、いたいだけいればっ」
「……」
「でも、将来的には自分の土俵に帰れよ。帰ってほしいって気持ちは、変わらないから。それまでは好きにしろ、バートラント」