8くち 14
「この店の定員とも知り合いなのか?」
「日本じゃブロンドは派手だから、覚えられやすいんだよ。単一民族は自分たちとは違う見た目の人が物珍しくてたまらないの」
「あー、よくチラチラ見られるのはそういうことか」
「しかも僕は日本語が流暢だから友好的に接してくれるわけ」
「俺にはまだまだ遠い道のりだな」
注文した品物が届く前に、ボディバッグに入れておいたウェットティッシュを取り出して、バートにも渡して手を拭いておく。
手を拭いたウェットティッシュを、丁寧に折りたたんで目の前に置いておくマシューと、丸めてテーブルの端に追いやるバート。
二人の横から、気の良さそうな女性定員がやってきて、二言ほどなにかを言って、商品の載ったトレーごとテーブルに置くと、丁寧に深々と頭を下げて去っていった。
バートはよく分からなかったけれど、マシューが「ありがとうございます」と言うので、自分もお礼を言って定員の背を見送った。
恐らく「ごゆっくり」などと言われたのだろう。
早速、サラダが入ったプラスチックの蓋を開けてフォークを用意し、ジュースのカップにストローを指してから、包装紙に包まれたハンバーガーを両手に持った。
持ったところで、眼前のマシューが「いただきます」のポーズを取ってこちらを睨むので、包装紙を剥いていた手を止めて、合掌と挨拶をしてからまたハンバーガーを持った。
見本通りの商品が手の中に収まり、それに噛り付く。
マシューにとっては米や味噌がソウルフード。バートにとっては、今目の前にあるものがソウルフードだ。
笑顔が止まらなかった。
「いやぁ、にしても、日本でバレるなんてなあ…」
「違う。僕が本人だって言っちゃったんだ。彼女たち、あんまりにも必死そうだったから。嘘を吐くのは酷だと思って。勝手にごめん」
「そうだったのか。俺はお前がそれで良いなら構わないよ。気にしないでくれ」
「ありがとう。ところで、"D.C.ブロマンス"とか、"ノーティークライム"って、なに?」
話を振られたので、噛り付いていたハンバーガーから口を離す。
噛み切るつもりだったのだろうが、平たく切られたピクルスが一枚、ズルリとバーガーの間から出てきた。
バートはそれを手で摘まんで食べながら言った。
「俺が出ていたテレビドラマ」
「舞台だけだと思っていたけど、ドラマもやっていたんだ」
「忘れるな、モデルもだぞ。でもメインは舞台だぜ」
驚いた。ビッグでマルチなエンターテイナーだと自称する時がこれまで数回あったが、本当にマルチだ。
しかも、女子高生が言うには、「ハミングバード賞」なるものまで受賞しており、ビッグだ。