8くち 13
一人だけ状況を理解出来ていないバートが、マシューと女子高生を交互に見ている。
説明してやろうとバートの耳を引っ張ろうとするが、
「握手してください!」
女子高生らが突進して、バートが了承する前に両手を取って握り込んでいた。
訳が分からず、されるがままのバートは先ほどの女子高生よりもぱちくりしている。
「すみません、ファンです!わたし、"D.C.ブロマンス"も好きですけど、"ノーティークライム"のバロン役でバートラントさんを知って…っあの、もうなんと申し上げたら良いのか!映画化の件も楽しみに待っています!私普段はアニメヲタクで二次元専門なんですけど、貴方は別枠と言うか!ああっ本当に会えて光栄の極みです!ありがとうございます!」
彼女の話している日本語の意味が全く理解出来ない上に、早口過ぎて聞き取れもしない。
ただ分かるのは、もう"バレた"と言うことだけだ。
マシューの方を心配そうに横目で見ると、本人は「僕の方は気にするな」と言うように笑うので、バートは二人に「シーッ」と口の前で人差し指を立てるのを繰り返しながら、順番に握手をして、ハグをした。
写真撮影も頼まれたものの、SNSに掲載されるのはバートが困ると言うので断り、また、バートを見かけたことは、彼の快適な日本観光の為にも心の内に留めておいてほしいことを伝えて別れた。
別れ際にまで握手を求められ、バートはそれを快く了承して長い握手をした後、ようやく解放された。
その頃には、腕時計を見れば正午は目と鼻の先になっていた。
「はあ、…バート、昼食にしようか」
「…ああ」
「今日はバート・デーも追加になったかもな」
「日国デーにしようか」
マシューもバートも少しばかりだるそうにして、繁華街の中央にある飲食店が集まった通りで、ファストフード点の代表格として名高い「ハックドナルド」―――通称ハックに入店した。
「バート、席取っといて」
「あい」
バートが好きなメニューは覚えている。
アメリカにいた頃にドライブスルーでハックに寄れば、いつも家族を代表して注文させられるのはマシューだったから、家族全員がいつも頼むメニューは覚えている。
定員が待つカウンターに踏み出し、やはり顔見知りの定員に日本語で「こんにちは」と挨拶をしてから注文に移った。
「シーチキロバーガーとメガ盛りポテト。あと、ギガビッグチキンバーガー。サイドはソース無しのサラダ二つ。飲み物はジンジャーエールのLサイズとMサイズを一つずつでお願いします」
「かしこまりました」
事前に店内での飲食を希望した為、札を持って席で待っているように案内され、マシューは「どうも」とお礼を言ってからその場を離れた。
席ではバートが窓際を取っており、その真正面に腰かける。