8くち 12
「全ての名前だ、パトリック・パトリオット!」
「はぇ?」
「私が全ての名前だ、パトリック・パトリオット!パート、ないしピーピーとして!」
「はぁ?」
女子高生だけではなく、隣にいたマシューすら呆気に取られて、素っ頓狂な声を上げていた。
黒髪と金髪の男女四人組の中で、くすんだ金髪の男一人だけが得意げだった。
その中ですぐに行動を起こしたのはマシューだった。目をぱちくりさせている女子高生が可哀相で、バートの肩を人差し指で小突く。
バートがこちらに耳を傾けるので、顔を近づけて耳打ちする。
「なにを言おうとしてんの?」
「俺の名前はパトリック・パトリオット。パート、もしくはピーピーと呼んでほしい。バートラントとは別人だって言うつもりだ」
バートが女子高生に振り返る。
「パートしなさい。二名はどこを行きますか?私が二名がヘンタイアニメストアのっ」
話し始めるバートの耳をひっつかんでまたこちらに顔を向かせる。
「なんで」
「巡り巡ってお前の迷惑に繋がる気がした。だから、彼女たちには悪いが、本人だと明かすつもりはない」
顔を離して、眼前の女子高生らが「もしかして間違えたのかな。そっくりさん?」「間違うはずないもん。ドラマ何周したと思っているの?それに、バートラントは特徴的なアホ毛をしていて、ハミングバード賞を三回連続で受賞しているのよ!私、彼が受賞する姿を見る為に応募しまくって渡米して、親に三十万借金があるの!実際に彼を見たことがあるんだから!三十メートルくらい距離があったけど、バートラントの半径一キロに入ったことがあるのよ!この美丈夫は絶対バートラント!」と言い合いをしているところに、マシューは声をかけた。
なんだか話しかけづらかったけれど、捲し立てている女子高生が言い終えるや否や、すかさず「あの」と割り込んだ。
二人とも同時にこちらを向くと、マシューを真剣な面持ちで見つめる。
二人の黒曜石ともブラックホールとも言える瞳は確信と好奇に満ち満ち、光を反射して煌めき、宝石のようでもあり、宇宙のようでもあった。
しかし情熱的過ぎて、少々怖くもあり。
隣で「あとはマシューが説明してくれるだろう」と期待して待機しているバートを横目で見て、
「本人です」
と思わず言ってしまった。
女子高生たちの顔はみるみる内に歓喜に染まり、飛び跳ねて悲鳴にも近い声を上げた。
しかしあまりに興奮し過ぎている為か、大声にならずヒューヒューと虫の息になっていた。