8くち 11
店を出ると、また繁華街の通りを二人で歩いてゆく。
昼が近くなってきたこともあり、近所の学生が休み時間を使って、ファストフード店やスーパーの惣菜コーナーを目指すようになり、人通りは一層多くなった。
他校の制服だけではなく、志士頭の制服を着た生徒も散見され、マシューはいそいそとバートの影に隠れた。
「どうした?」
「ずる休みだから見つかったら困る」
バートを通りの方へ押し出していると、
「は、はろー!」
前方からやってきた他校の女子高生二人組が、バートとマシュー目がけて一直線に進んできた。
女子高生らが立ち止まり、黒髪二人組と金髪二人組が向かい合う。
好機に打ち震えた輝く瞳で日国兄弟を見上げる女子高生は、二人してバートの方を見て、頬を紅潮させて自らの拳を握って上下に振った。
マシューとバートは顔を見合わせて、同時に首を傾げた。
「あ、あの!ゆ、ゆーますとびー…」
英語があまり得意ではないのか、二人して「これで良いの?もう話しちゃってるんだから!」とチラチラこちらを見ては相談し合っている。
場の空気を読んだマシューは、自分が発言することを軽く挙手して示した。
「日本語で構いませんよ」
「え!?うわ!本当ですか!」
二人とも安心したのか、いやむしろ先ほどよりも興奮しているのか、一層甲高い声を出して、嬉しそうにお互いの手を握り合った。
バートは「この子達は可愛らしいレズビアンだな」と微笑ましく見守っていた。皆、何を言っているのかさっぱりだったから。
「僕の方はこれでも日本人なので。こっちは日本語は得意じゃないけど」
言って、親指でバートを指す。
女子高生はマシューの日本人発言に一瞬だけ硬直した後、二人して小声で「嘘信じらんない!明らかに顔がアジア系じゃないし金髪だし目青いよ?日系?違うか。どこの人?帰化した人なの?」と大慌てで話し込んでいる。
興奮しているからか丸聞こえだ。内緒話になっていない。
「じ、じゃあ、えっと、その人って、バートラントさんですよね!?」
バートを両掌で示す女子高生。
「私たち、"D.C.ブロマンス"字幕版で毎週見てました!エヴァンシーズンの続編待ってます!応援してます!」
とりあえず、バートに訳して伝えると、バートはついと女子高生に視線を戻して、挨拶した。
「初見!」
真横のマシューから肩を叩かれた。
「はじめましてだよ!」
「そうだ。はじめまして!」
女子高生はバートの勢いに釣られて、「は、はいはじめまして!」と深々と頭を下げた。