8くち 10
バートがカードスリーブに収められたレアカードをフックから取ろうとする。
しかしマシューは、その手を掴んで下げた。
「どうした?」
こちらを不思議そうに見つめるバートに、しばらく黙り込んで、マシューは小さな声で言った。
本当に欲しいものがあるなら、申告が恥ずかしくても、何が何でも、手に入れる。
それがマシューにとっての"好き"だった。
決して申告するのが恥ずかしいカードなのではなくて、自分とこのカードが似つかわしくない気がして恥ずかしいのだ。
「そっちじゃなくて、こっちのにして」
マシューが指差したのは、可愛らしくて目つきの鋭い魔法使いの女の子が描かれたカードだった。バートが取ろうとしたカードより印字された数字は低かったけれど、愛嬌はこちらの方がありそうだ。
しかも先ほどのカードと比べたら少し安い。ならもう一枚買ってやると言うと、マシューは目を丸くして、喜んでいるのか困っているのか判別のつかない顔をして、その魔女のキャラクターの隣にある、魔女と似たような外見ではあるものの、儚げな雰囲気を纏う女性のカードを指差した。
やはりバートが取ろうとしたカードよりも数字は低かったし安いけれど、マシューが欲しいものがこちらなら、先ほどのカードはもうバートにとってはどうでもよい存在だ。
「ウィッチとメイデンと、手に持っているパックも買おうか?」
マシューが両手に持っているパックをバートが指差す。マシューも自分の手にある商品を見下ろして、しかしそれを自分の方に寄せてバートを睨んだ。
「いい。これは自分で買う。生活費はバートが持っても、趣味代は個人で持つって話だったし。例外なのはその二枚だけ」
「そっか」
「うん。……ありがとう、バート」
とても久しぶりに、弟に、心からの「ありがとう」を言われた。
マシューはこの店の店主とも知り合いらしく、挨拶と雑談を少しばかり楽しんで会計を済ませた。
袋に入れてもらわずに、買ったばかりのレアカードを渡すと、マシューはそれを両手で受け取って、バートが今まで見たことがないような顔をして喜んだ。
夕食に大好物が並んだか、起きたら靴下にプレゼントが入っていたか、サプライズの誕生日パーティーを仕掛けられたか。
とにかく、幸せそうな顔をしていた。
その顔が見たかったバートも幸せだった。