8くち 9
店内には見知ったものから全く知らないものまで、ありとあらゆる日本のアニメや漫画の、素晴らしいクオリティーを誇るフィギュアが箱越しにポーズを決め、壁際のトレーディングカードパックがパッケージの光沢を煌めかせ、上質な紙を使ったポスターやタペストリーは、クリエイター達による渾身の一作の価値を損なわないよう、綺麗に包装されていた。
アニメにも漫画に対しても、"家族が関心を寄せているから自分も知っている"程度のバートであったが、何故だかこの店の品物には、物欲を刺激する魔力が宿っていた。
「アーメイジング!アメイジーング!」
大声を出すと怒られるので、小声で声を張れるだけ張ってバートは感動を精一杯表現する。
フィギュアの箱を手に取り、父が日本から持ってきた極道ゲームの主人公が、平面ではなく立体となってこの手の中に納まっていることに、興奮していた。
「凄いな!素晴らしいな!素敵だ!」
あれもこれも手に取ってマジマジと見るバートに、なんだかマシューは自分が褒められたようで鼻が高かった。
一頻り見た後、マシューが壁際でトレーディングカードのパックをいくつか手に持っていることに気がついた。
「それ、ダッドが日本から持ってきた漫画で、マシューが特に気に入っていた作品のカードゲームだよな」
「うん。今も学校の友達とバトルするんだ。最近友達も良いカードを入れてきてさ、僕も新しいカードで戦略を変えようと思うんだ」
「なら、何が入っているか分からないパックよりも、そっちの一枚売りのカードを買ったら良いんじゃないか?ほら、あのカードは書いてある数字が…6000だから、多分強いんだろ?」
バートは五枚のカードがランダムにパッケージングされているパック群の隣にある、欲しいカードを確実に入手出来る一枚売りのカード群を指差した。
「あー、…ああ言うウルトラレアカードを単品で買う場合は値段が高いから。パックなら百五十円だし」
「なら買ってやるよ。えーっと、あれの値段は…」
値段を覗き込むバートを押し退けて、マシューは手に持つパックを握りしめた。
「いいよ!奢ってもらう為にバートと買い物に来たんじゃないんだから!そういう下心のあるヤツだと勘違いされるのは心外だ!」
「思ってないよ。ただ、マシューが喜ぶことをしたいんだ。俺、お前の邪魔ばっかりしているから、挽回したいんだよ」
「だからって金さえかければ寝返ると思うなよ!…とりあえず今回は買ってもらうけどさ!」
「ああ!ああ!分かってるよ」
欲求には逆らえない。
プライドを負かすほどこのカードゲームは物欲を刺激してくるんだもの。