8くち 8
「で、いつもと違うましゅくんは何をしに来たんだ?」
「良い質問だ。今日の外出の趣旨について説明する」
「…失敗に対する制裁?」
バートは母親に叱られた子供のように肩身をすぼめて、ばつの悪そうな顔をした。
マシューはその反応だけで十分だった。
一晩もすればケロッと忘れるだろうと思っていたけれど、銭湯の時も今も気にしているのだから、一晩どころか今もちゃんと反省しているようだ。
タバコの時よりも反省している気がするのは少々癪ではあるものの、気にしないことにした。
「それは昨日したし、もう蒸し返さないって言ったろ?今日するのは、ここ数年間断ってきたお前と僕の、家族としての相互理解を深める儀式だ。バート、お前には僕のことを知ってもらう。僕の好き嫌いとか、趣味とか、倫理観とか、理想とかだ」
バートはポカンと小さく口を開ける。
エメラルドグリーンの瞳とベビーブルーの瞳がまばたきを揃えて視線を交わらせていた。
「俺はなにをしていればいいんだ?」
「マシュー・メルナード・日国について理解を深め、彼の迷惑にならず、且つむしろ、彼の快適な生活に貢献出来る生き方を模索すること」
「分かった!今日は"マシュー・デー"ってことだな。じゃあ今度は"バート・デー"も作ってくれ」
「前向きに検討した後、善処する。つまりは断る。さあ行くぞ」
バートの胸元にかけられているドッグタグの紐を引っ張って、小さな店に突っ込んでいった。
その店はバートからしたら、"雑多"の一言に尽きる内装をしていた。
ただでさえ閉所恐怖症の人が来たら卒倒しそうな小さな店には、商品棚がパズルのように並び、そこに置き切れない品物は、壁に隙間が無いほどかけられたワイヤーネットにうんざりするほどかけられていた。
ワイヤーネットに商品を吊るす為に配置されたフックからは、箱の商品や平たいパウチ状の商品が通路にはみ出るほど大量に吊るされていて、壁際を歩く際、上半身を少し壁際から逸らして歩かなければ、肩が当たって商品を落としそうになってしまう。
繊細そうなものが多い上に、最近学んだ通りでは、この箱の商品は一つで80ドル(だいたい九千円)もする。
なんとせせこましいところにこれほど高価なものを詰め込んだことか。
しかしそれ以上に、バートは感動もしていた。
この店は、初めてマシューと繁華街に訪れた時に、バートが一番最初に飛びついた店だ。