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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
2くち「溢れる異文化!ワンルームサラダボウル!!」
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2くち 3

 

 一連の動作を見守っていたバートは、いい加減玄関から、九畳一間の生活スペースにあるキッチンにやってくると、蹴り飛ばされて部屋の隅に転がっていたキャリーケースを起こしにかかる。

 散らばった中身をケースに押し込んでいると、背後からポットの沸騰を知らせる電子音。

 振り返ると、沸騰したお湯をインスタント味噌汁の素が入っているお椀に入れ、出来立てのそれを啜って、ホッとしたような顔をするマシューがいた。

 怖い顔をしていない弟を久しぶりに見た気がして、今なら話しかけても良いだろうと、バートは歩み寄った。



「なあ、俺、マシューが帰ってくるまで荷物を広げて待ってるな」



 キャリーケースを抱えて、バートは居間を見た。

 美しい(はし)の持ち方を披露して、マシューはそんなバートを睨みつける。



「ダメ。とりあえず家にいても良いけど、冷蔵庫と電気と窓以外は触るの禁止!大人しくしていろ」

「と、トイレもダメ?俺、頻尿だから」

「勝手に行けばいいだろ!」



 ちょっと無神経なバートの発言に、味噌汁の最後の一口を咳き込んでしまった。

 気管に入ったかもしれない。苦しくなって浮かんだ涙を拳で拭う。


 また両掌を合わせて、今度は「ごちそうさまでした」とやはり誰ともなしに告げて、食器を片づけにかかる。

 足取りは素早く、バートは休みなくあちこち動き回るマシューを目で追う。

 自分がどこに落ち着いたら良いのかさっぱりだったから。キャリーケースを抱え込んで、キッチンでポツンと突っ立っている。

 トイレに行ったりベルトやらネクタイやらを締めているマシューを見守り、彼がついに家から学校へ行ってしまおうと鞄を手にしたところで、視線が合った。

 視線が合っただけなのに、カメラを向けられたアイドルのように、バートは眉と口角を弓なりに釣り上げた。

 対照的に、マシューは真一文字に引き結んでいた口を、弓なりにひん曲げた。起きたばかりだと言うのにゲッソリしていた。



「本当に、余計なことをするなよ。いいね」

「バートに任せろ」

「…行ってくる」

「ああッ待って」

「なに」

「ボタンかけちがえてるぞ。三番目」

「…そりゃどうも」



 最後までバートを信用していない顔で、ボタンを直しながらマシューは家を出て行った。

 二人の調子は、明らかに噛み合っていなかった。



 さて、ここで改めて二度目の自己紹介をさせてください。


 僕の名前はマシュー・メルナード・日国。

 日本ではクラスメイトが覚えやすいように、日国 マシューと名乗ってます。

 志士頭(ししがしら)学園高等部二学年に在籍中の、今年度十七歳になる、今のところ十六歳。演劇部と生徒会に所属。悩みは今見て貰った通り。


 兄の名前はバートラント・メリカン・日国。愛称はバート。

 今年度で十九歳になる、今のところ十八歳。職業はしばらく会っていなかったから知らないけれど、昔は地元のミュージカルクラブに所属していた。

 ご覧の通り、日本人の片親がいるものの、コテコテのアメリカ人。


 姉の名前はベラーノ・メリカン・日国。愛称はべッラ。

 僕が生まれる前にこの世を去っている。今も生きていたのなら、今年度で十八歳で、きっと僕らの兄弟仲なんてどうでも良くしてくれるはずの人。

 バートは(もっぱ)らべッラと呼んでいて、僕はべラ(ねえ)と呼んでいる。バートの妹で、僕の姉。写真のみの存在。


 この三人が一ルームのアパートに住むなんて、ああ、考えたくない。

 こんな朝は初めてだ。

 うんざりした顔で、早朝の白む街を駆けていった。

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