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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
8くち「一人暮らし万歳!土に植えた家族愛!!」
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8くち 6

 

「ましゅくん、昨日は来なかったからどうしたのかと」


 マシューがバートの方をちらりと見ると、バートは苦笑して視線を逸らした。

 隣から小さく「ウーップス」と聞こえた。



「昨日はなんだか疲れちゃって」

「そうかい。学校は?」

「ずる休みです」

「真面目なましゅくんは今日はお休みかな?」

「今日は不真面目なので一番風呂良いですか?」

「どうぞごゆっくり」



 入口を開けてくれた老父・佐々貴さんの横を会釈しながら通り過ぎて入店する。

 バートは、「おはよう!」とウインクを一つ寄越してマシューの後に続いた。

 老父は「日本語がお上手ですね」と言っていたが、バートは彼がなにを言っているのか、今日もよく分かっていなかった。

 マシューは店の奥にいるであろう老父の妻・くめちゃんに、代金をトレーに置いておくことを告げ、奥から返事が返ってくると、小銭を置いて脱衣所へ向かった。

 やはりバートもそれに(なら)ってマシューの後を追った。マシューに続いて脱衣所へ入ろうとすると、番台に出てきたくめちゃんと目が合った。



「おはよう!」



 言うと、



「ぐっどもーにんぐ」



 と返ってきて、バートはとっても嬉しくなった。

 一度その場に荷物を置くと、番台に乗り出して、くめちゃんの体をそっと抱き寄せる。

 くめちゃんもバートのハグに応じて、自分も少し身を乗り出してバートの背中を撫でた。



「ありがとう!」

「えんじょい」



 日本人が下手な英語を。

 アメリカ人が下手な日本語を。

 へんてこな会話だけれど、二人の間では特別な瞬間だった。

 くめちゃんと散々握手をした後、荷物をまた持ち上げて、脱衣所に向かった。


 早朝の銭湯は貸し切り状態だった。

 デッキブラシでピカピカに磨き上げられたタイルに、足首に巻いたロッカーのカギが時々当たっては浴室内に響いた。

 マシューが向こうの洗い場の蛇口の前で髪を洗っていたので、そちらに向かう。

 隣のバスチェアに座ると、「二人しかいないんだからわざわざ近くに来なくていいんだよ」と言われたが、だからと言ってわざわざ離れて座る理由もバートには無くて、でもマシューが嫌がっているので、とりあえず蛇口一つ分の距離を開けた。



「あの夫婦は良い人達だな。とても親切で、素晴らしくて気高い人達だ」



 バートが備え付けのシャンプーを手に取って泡立てながら言うと、一足先にシャンプーを流しているマシューは猫背になって返した。



「僕が日本に戻った時から、ずっと良くしてくれるんだ」

「お前の、この街でのグランマ(祖母)グランパ(祖父)なんだな」

「…あっちが僕を孫みたいだと思ってくれているなら、そうかもね」

「きっとそう思っているはずだぜ」



 笑いかけると、照れ臭かったのか、マシューはこちらを筆舌に尽くしがたい面持ちで睨みつけていた。

 最近じゃこんな表情を向けられるのも慣れっこだった。

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