8くち 5
「ダン兄とは時々話すけど、相変わらずだね、あの人は。…早々に立ち直れるような状態じゃなかったもんね」
「いいや変わっているよ。どこで寝た?って聞いたら、昨日は気まぐれでベッドで寝たらしいもんあいつ。マムとダッドともピクニックに行ったみたいだし、充分よくやれているよ。ダンケは毎日良い方向へ向かっているんだ」
「………そっか」
「お前はどうなんだ?」
「え?」
「どうだった?元気にしていたか?」
………。
一瞬、ちょこっとだけ「ギクリ」と思ってしまった。
"お前はどうなんだ?お前は良い方向へ向かっているのかよ。ダンケと違って、お前は"
そう聞かれたように思ってしまった。
「………。…み、見れば分かるだろ、元気だよ」
「でも痩せたよな。前はもう少しデブだったろ?」
「デッ…!そりゃ、ヘルシーな日本食を健康的に食べていたんだから必然的に減るよ。日本に来てから五キロ減ったからな」
「俺はここ一年で三キロ増えたかな。今、多分…九十キロくらい」
「俺より二十キロ近く重いじゃん。デーブ」
「アメリカじゃ平均だぜ?お前はガリガリの部類だ」
「そりゃ肥満体国のアメリカじゃそうなるだろうよ」
「でも俺は肥満じゃない。脂肪と筋肉のバランスが取れたビッグでマルチなエンターテイナーボディーの持ち主だ。雑誌の撮影でカメラマンに"プラチナドーン(白金の夜明け)"と例えられた体型だぜ」
「プラチナドーン」
「俺愛用のプロテイン、今度分けてやろうか」
「………うん」
その後もマシューとバートは、散々だらだらと話をしながらフォークで皿を突つき、パンケーキもスープも冷めきった頃に完食した。
七時に起床してから、既に一時間三十分が経過していた。
けれどマシューは話し過ぎたとは思わない。ならばもちろんバートもそうは思わない。
お互いのことを、家族のことをこうして詳細に話し合えたのは数年ぶりのことだったから。
食事中にあんなにも誰かと話し込んだのは、もう忘れてしまったくらい昔の記憶にも、きっと無かったことだろうから。
むしろ有意義であったとマシューは思った。
食器を片付けて荷物をまとめてから着替えると、昨日行けなかった銭湯へと向かった。
店先では老父が暖簾をかけている最中で、開店したばかりのようだった。
「おはようございます、佐々貴さん」
マシューが挨拶をすると老父はこちらを向き、低く会釈をして、手に持っていた暖簾を下ろした。