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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
8くち「一人暮らし万歳!土に植えた家族愛!!」
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8くち 1

 挿絵(By みてみん)

 8くち「一人暮らし万歳!土に植えた家族愛!!」



 翌朝。

 目覚ましの電子音より一分早く起きて、マシューは時計を止めてから起き上がった。

 いつものように眼鏡を探して顔に持ってくると、隣のバートを見る。

 寝乱れた格好で、今も尚快眠にある兄の顔面に向けて、自分の枕を振り上げた。


「…」


 振り上げたまでで辞めた。

 頭の高さまで上げていた枕を、静かに自分の胸元に持ってゆき、その寝顔を見下ろす。

 昨日は死んだと思っていた顔が、今は生きていると思える顔にしか見えない。


「……」


 枕を置いて、布団を畳むと、マシューはカーテンも開けず音も立てずに洗面所に向かった。

 顔を洗う時も、歯を磨く折も、マウスウォッシュでうがいをしている間も、いつもの朝よりマシューは静かだった。

 そして今日も一度だけ部屋の外へ出ると、五分もしない間に帰ってきて、キッチンに立った。

 バートが保存していたパンケーキの粉袋を開けて、冷蔵庫から牛乳と卵を取り出す。

 卵を割る時も、マシューは一度廊下に出て、居間からなるべく遠いところで、自分の拳に向かって卵を振り下ろしてヒビを入れた。

 そうしてまたキッチンに戻ってきて、慎重に慎重を重ねた上に更に静粛に、ボウルに中身を落とした。泡だて器で混ぜる時も、ガシャガシャと音が鳴っていたのは玄関前だった。


 三十分後には室内に控えめな甘い香りが漂い、テーブルにはフルーツが添えられたパンケーキ、クルトンが振り掛けられたシーザーサラダ、とうもろこしとじゃがいもとウィンナーのコンソメスープが並んでいた。

 マシューにとっては、久しぶりにまともに料理をした日だった。昨夜の料理は納豆を仕込んだ悪い料理だったので、まともに料理をした、とは言わないのがマシューの考えだ。

 いつもはインスタント食品か、納豆と味噌汁か、そこに魚を加えるか、と言ったもので、真面目に取り組むことは多くなかった。

 バートに"まとも"な手料理を振る舞うのも、もしかしたら初めてかもしれない日だ。

 真面目に取り組むことが多くなかったとしても、料理の心得はある。しかし万が一にでも美味しくないものを、たとえバート相手にでも提供するわけにはいかない。何度も味見をしていたら、味見だけで少し腹が膨れてしまった。

 自分の神経質さに呆れながら、マシューは既に快眠と言うより惰眠になりつつあるバートの方へ向かった。

 服の中に手を突っ込んで脇腹を掻いていたのであろう兄を見て、やはり枕で叩こうかと思うも、屈みこんで肩を揺すった。


「兄さん、朝」

「……」

「バート、おはよう」

「うーん」


 しかしそれでも起きなかった為、暴力的ではない起こし方として、パンケーキで使った濡れタオルを顔面にそっと載せると、バートはすぐに起き上がった。

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