7くち 7
その後も、タバコの件以来の落ち込みぶりで、背筋の曲がった正座をして衣服を畳むバートなんて知らんぷりして、納豆を混ぜ、卵を冷蔵庫から出して、フライパンを用意して調理を進めた。
野菜を切っている間にも、視線がチラチラとこちらに向かってきているのに気づいたが、ひたすら手元にだけ視線をやって、徹底して無視をした。
「あのさ」
「……」
「マシュー」
「……」
話しかけられても無視を決め込んだ。
察し合いの文化なんて知ったこっちゃないバートだったが、マシューが口をききたくないことくらい分かる。
諦めて自分の肌着を静かに畳んだ。
そうして、「食べるからさっさと座れ」と促され、料理の並んだテーブルの前に二人で向かい合わせで座った。
合掌し、「いただきます」とムスッとした声色で言うマシューの真似をして、「いただけます」と続いて箸を取る。
テーブルにはオムレツとサラダとチキンとパンが並んでいた。
二人分用意されているのに、合掌も「いただきます」もしたのに、何故だか自分は食べてはいけない気がした。食べるのが憚られる。
気まずい食卓だ。
マシューが何口か食べてから、ようやく彼の顔色を伺いながらオムレツに手をつける。
食べている最中に怒鳴られてしまうのかも。
虐待を受けている子供のように臆病になって、やっぱりマシューの顔色を伺いながら、オムレツを口に含む。
そして。
「ヴッ!」
オムレツを咀嚼した途端に青褪めるバートに、チキンを齧るマシューがチラリと一瞥をくれる。
「え…ずぇ?」
事態が上手く呑み込めずにまばたきを繰り返すバートをそれっきり無視して、黙々と自分もひき肉の詰まったオムレツを食べるマシュー。
バートは口内に広がる不快感に顔をしかめて、オムレツを切り分けて中身を出した。
中には発酵して糸を引く豆がぎっしり詰まっている。
納豆だった。
「ま、マシュゥ…」
「これから失敗する度に厳罰な」
厳罰。
これはバートへの罰だ。
言われたことを守らずに昼寝をしていたことへの罰。
そう言われてしまえば、バートはもう何も言い返せなかった。
悪いのは自分だ。マシューの生活の邪魔をしたのはやっぱり自分だった。
眉根を寄せつつも、大人しくオムレツをまた食べた。
美味しくなかった。
「ごめんな。言われなかったらやらないし、言われたことも出来なくて」
「本当だよ。一人暮らしだったら楽なのにな」
「……」
"「帰れば良いのに」"
言おうと思って、辞めた。
言葉が無くなってしまい、黙りしょげてしまうバートにこれ以上言うのが、マシューにはやはり"可哀相で"出来なかった。
だけれど、今回、自分の言動にブレーキをかけることは、マシューにとって苦痛ではなかった。
謝ったきり、なにも言わなくなったのだから反省している証拠だ。
そうしてすぐに、許してしまおうとする自分が出てきてしまうけれど、これもやっぱり、今回のマシューにとって苦痛ではなかった。
何故だかは自分でも分からなかった。
ただ、バートが不味そうにオムレツを食べているのが、今日は微笑ましくすら見えたのだ。




