2くち 2
「学校?早くないか?まだ朝の五時半だぞ?というか、今は夏休みじゃないのか?」
「日本の夏休みはもう少し先の七月末頃で、あったとしても一か月ぽっち。日本とアメリカじゃ学期の始業時期が違うからね。それにもう五時半だよ!朝練があるんだ」
「朝練?」
「部活に参加しているんだ。演劇部。授業が始まる前の早朝に部活をするんだよ」
「なんで」
「なんでって…。自分が所属している部活に対する意識を高める為とか…、更なる能力の向上とか…、とりあえず、早起きしてでも部活をやりたいって人が自主的に集まって活動するんだよ。やりたい人だけ参加して強制じゃないところが重要ね」
「でもそれ、生活習慣狂うだろ。寝不足にもなるし、内臓にも負担だし。お前、昨日は何時に寝た?今の時間に起きるなら二十二時までには寝ていないと寝不足だ」
「ああもう!朝からバートと意見交換している暇は無いんだよ!忙しいの!分かるだろ!」
「よし、ならマシューが着替えている間にバートがメシを作ってやる!すぐに食べられるのが良いんだよな!シリアルとオートミール、どっちが良い?」
「いらないしそんなんじゃ足りない!やってくれるんだったら、そこの茶碗にご飯をよそって、冷蔵庫から納豆を出して、ポットで水を沸騰させて、インスタントの味噌汁の準備をして」
「ごはみ、し…なっとー……えーっと、ミソスープのことだよな。納豆は知ってる。あの不味そうなヤツだ」
「ああもうやっぱり大人しくしておいて!十七時には帰ってくるから、それまでじっとしていて!出来る?バート」
「あー…する、出来る、頑張る。オッケー」
先ほどからマシンガンのように怒号を浴びせる弟に、兄はたじたじだ。
人差し指を立てて子供を叱りつける母親のようでいたマシューは、体の向きを変えると大急ぎでお椀を持って白米をよそい、冷蔵庫から出した納豆を混ぜあわせて白米にかけて、ポットに水を入れて沸騰ボタンをオンにした。
この動作の間に、バートの手からすっぽ抜けたキャリーケースを蹴り飛ばしていた。
インスタントの味噌汁を用意して、お茶をコップに入れて、テーブルの前に座り、ようやく箸を持てた。
典型的。教科書のような日本の朝食が並んだ。ここに漬物と焼き魚が並んでいたならば、もっとそれっぽかったに違いない。漬物の部分はお浸しでも構わない。
マシューは「どんなに急いでいてもこれだけは忘れてはならない」と言うように、両掌を合わせて「いただきます」と誰ともなしに告げてからお椀を持った。