7くち 1
7くち「粘着く叱責!白湯に波打つ家族愛!!」
月曜日。
新しい朝の始まりの、いつもと同じ電子音。目覚まし時計が今日もけたたましく鳴っている。
やっぱり今日も先に起きたマシューが、子供みたいに丸くなって眠るバートの頭を枕で叩いた。
「起きろバート!朝飯!」
「ずぇー…」
「いい加減慣れろよ、この時間に起きるのも」
「低血圧なんだよぉ」
「嘘つけ。お前は高血圧のはずだ」
「なんで分かるんだ」
「J's患者は高血圧なんだよ」
「そうだっけ…」
話している間にも瞼を持ち上げていられないバートの目を、両手の親指で引ん剥くマシューだった。
まどろむ暇も与えられずに、時には白目を剥きながら舟を漕いでは、バートは二人分の朝食を準備。
マシューは一度荷物を持って外へ出たが、すぐに戻ってきて学校へ行く支度を始めた。
それを横目にいつも通り納豆を出そうと冷蔵庫を開けるが、見慣れた白い発泡スチロールの三個パックは無かった。
寝惚け眼で、冷蔵庫の他の引き出しを探してみたけれど、それでも納豆のパックは見当たらない。
冷蔵庫のドアアラームが鳴って、驚いたバートはそこでようやく覚醒した。
「マシュー、納豆無いぞー」
ドアを閉めてキッチンから廊下に向かって顔を出すと、洗面所からマシューも顔を出して、塗りかけの整髪剤で濡れた手を宙で彷徨わせていた。
「あーいけない。買い忘れていたんだ」
「どうする?」
「他に何かある?」
「昨日の残りの…えーと、チキンスープと果物と野菜とパン」
我侭な話、マシューは昨日食べたものをそっくりそのまま、翌日の朝に食べたくなかった。
掌の整髪剤を擦り合わせて、髪につけながらマシューは言った。
「バートは何を食べるの?」
「発酵無しのワッフルを作るつもり。あとは昨日の残りの片付け」
「ワッフルメーカーなんて、うちに無いけど」
「マシューが学校に行っている間に繁華街で買った」
「あ…そ、そう。じゃあ、チキンスープとワッフルとサラダ…で、僕も良い?」
「いいよ。お前は学校あるし、急いで作らなくちゃな」
快く頷いたバートは、いつの間にか購入した新品のワッフルメーカーと薄力粉を出してキッチンに向かう。
洗面所から顔を出していたマシューは、その後ろ姿にポカンと口を開けていた。
マシューが学校に行っている間は、外に出たとしても銭湯から家までが精一杯だろうと思っていた。
繁華街なんて週に一度行くか行かないかの場所だし、バートと行ったのはまだ二回くらいなのに。
いつの間にか道順を覚えていたらしい。しかも一人で買い物が出来るなんて。
そうだ、彼は昔から積極的な男だ。何に対しても、どこにいても、自分に自信があるから消極的にも受動的にもならない。いつだって自分から働きかける。
不正解も間違いも誤りも恐れない。成功する自信があるからじゃない。失敗を恐れない自信があるんだ。
失敗する自分を受け入れられる自信が、彼にはある。
マシューは、カフカとバートの自信家な部分を重ね合わせた。
「………」
その日結んだネクタイは、何故だかいつもよりキツく感じた。