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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
6くち「汚名なる生き写し!私を見ろ!私こそを!!」
45/270

6くち 7

 

 台本の中のカフカは雄弁だ。


 自分に絶対の自信があって、魅力的で、共感性に欠ける。自分の非を認めず、誰の気持ちも分からないくせに精神論を語り、人に取り入る為に平然と嘘を吐き、上辺だけの理解を示す。他を押し退けてでも前へ進み出る度胸がある。前へ踏み出さずにはいられない活力で満ち溢れている。情熱と欲望による衝動を、自分でコントロール出来ない。暴力的なエネルギーと自己愛の塊。まるでサイコパスだ。

 だから他の人物より、誰よりも、彼は多弁だ。

 自身の薄っぺらさを誤魔化す為に多弁であるようにも思える。似たようなことを何度も書き、なるべく多くの言葉を用いてページをかさ増しする、深みのない小説のように。

 けれど、作中では話せないことがある。物語とは関係が無いから語られないカフカの過去や、隠された人柄が。花美先輩が言うところの、「高慢ちき」や「クソ」では片付けられない人生がある。


 それらを台本の些細な文から読み取り、または一人勝手に夢想しては、カフカと自分を少しだけ重ねてみた。

 カフカのこの怒りは、果たして相手役であるロマンの慰めだけで本当に収まるだろうか。彼はなぜロマンの言葉で収められたのだろうか。彼は役者として立ち直る前に、精神病院に入るかカウンセラーに通う描写を加えた方が良いのではないか。カフカ・カートランドにとってのロマン・ハースとは。カフカとロマンの違いとは。


 大役を取られてばかりで、屈辱のあまり声を荒げるカフカの気持ちを考えてみても、まだ分からないことばかりだけれど、これから一つずつ、彼のことを知っていこう。


 眠たくなってくる頃には、今日も台本を抱え込んで眠った。

 瞼を閉じた後も、マシューの頭の中ではカフカが悲鳴を上げていた。


 自分の役だけれど、マシューではないカフカが。


 "「私は、……特別なんだぞ。私を見ろ!私こそを!」"


 見開かれて乾燥した目は充血し、悲しみからでも悔しさからでもない涙が溢れ、唾を吐き散らして激昂するカフカの姿が映る。誰の顔もしていない。真っ黒い靄がかかったカフカが、マシューの瞼の上で「私を見ろ」と喚いている。


 私は特別なんだぞ。

 私を見ろ。


 "僕こそを"


 そうしてまた朝が来る。

 新しい朝がやって来る。

 いつもと同じ太陽が、新しい朝を連れて来る。



挿絵(By みてみん)

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