6くち 7
台本の中のカフカは雄弁だ。
自分に絶対の自信があって、魅力的で、共感性に欠ける。自分の非を認めず、誰の気持ちも分からないくせに精神論を語り、人に取り入る為に平然と嘘を吐き、上辺だけの理解を示す。他を押し退けてでも前へ進み出る度胸がある。前へ踏み出さずにはいられない活力で満ち溢れている。情熱と欲望による衝動を、自分でコントロール出来ない。暴力的なエネルギーと自己愛の塊。まるでサイコパスだ。
だから他の人物より、誰よりも、彼は多弁だ。
自身の薄っぺらさを誤魔化す為に多弁であるようにも思える。似たようなことを何度も書き、なるべく多くの言葉を用いてページをかさ増しする、深みのない小説のように。
けれど、作中では話せないことがある。物語とは関係が無いから語られないカフカの過去や、隠された人柄が。花美先輩が言うところの、「高慢ちき」や「クソ」では片付けられない人生がある。
それらを台本の些細な文から読み取り、または一人勝手に夢想しては、カフカと自分を少しだけ重ねてみた。
カフカのこの怒りは、果たして相手役であるロマンの慰めだけで本当に収まるだろうか。彼はなぜロマンの言葉で収められたのだろうか。彼は役者として立ち直る前に、精神病院に入るかカウンセラーに通う描写を加えた方が良いのではないか。カフカ・カートランドにとってのロマン・ハースとは。カフカとロマンの違いとは。
大役を取られてばかりで、屈辱のあまり声を荒げるカフカの気持ちを考えてみても、まだ分からないことばかりだけれど、これから一つずつ、彼のことを知っていこう。
眠たくなってくる頃には、今日も台本を抱え込んで眠った。
瞼を閉じた後も、マシューの頭の中ではカフカが悲鳴を上げていた。
自分の役だけれど、マシューではないカフカが。
"「私は、……特別なんだぞ。私を見ろ!私こそを!」"
見開かれて乾燥した目は充血し、悲しみからでも悔しさからでもない涙が溢れ、唾を吐き散らして激昂するカフカの姿が映る。誰の顔もしていない。真っ黒い靄がかかったカフカが、マシューの瞼の上で「私を見ろ」と喚いている。
私は特別なんだぞ。
私を見ろ。
"僕こそを"
そうしてまた朝が来る。
新しい朝がやって来る。
いつもと同じ太陽が、新しい朝を連れて来る。




