6くち 6
部活が終わるまで花美先輩はその場を仕切り、先輩後輩関係無く講堂の清掃を徹底し、道具も残さず撤収することを指示すると、自分も片付けの輪に入っていった。
マシューも通し稽古で使われた大道具を片付けるのを手伝い、それらが終わると、今日の部活はお開きとなった。
部費を手にするマシューは、帰りにドラッグストアで補充用の化粧品を買い込み、頼まれていた小道具で使われる部品も揃えて家路についた。
帰り道は、来週に控える舞台の段取りを頭の中で反芻しながら歩いた。
帰宅して、既に二人分の荷物を準備して自分を出迎えるバートと二人で銭湯に行き、また帰宅すると、マシューは舞台の復習はせず、今度は勉学へ力を注ぐ。
今はバートが生活費を出してくれるけれど、日本行きを承諾し、今まで援助してくれた両親の恩に報いる為に今の自分が出来ることは、自分の為にするべきことは、怠けず、驕らず、勤勉で誠実で健康であることを証明する結果を出すこと。趣味ややりたいことばかりではなく、責務や、やるべきこともこなすこと。
欠伸が出ても、それで出てくる涙も拭いて努力しなくては。
宿題を終わらせて復習を始めるマシューを傍らに、バートはキッチンに立って夕食作り。
豆のスープの面倒を見ながら、ラクレット用に茹でた芋を食べやすいサイズに切り、おまけに白身魚のソテーと、バート専用のフランスパンのドゥ・リーブルと、マシュー用の白米も準備する。
ちなみに、フランスパンには「バゲット」「パリジャン」「タバチュール」「カンパーニュ」「ドゥ・リーブル」など、様々な種類が存在するが、見た目が違うだけで同じ材料で作られている。
材料の分量やパンの重さ、クープと呼ばれる切り込みの数、形によって、それぞれ異なる食感を楽しめる。
マシューの目が疲れてしょぼくれて来る頃にはそれらが出来上がり、二人で食卓を囲ったら、マシューは洗濯物を畳みながら予習、バートは鼻歌を歌いながら食器の片付け。
と、自分の役割をこなしながら思い思いに過ごし、夜も更けると布団に入り就寝。
"今日もよく学びよく食べよく働いた"と言うかのように眠るバートを隣に、マシューは一日の締めに、スタンドライトで照らした「汚名なるウェル・メイド・プレイ」の台本を読み込み、カフカの人物像、宗教観、家族関係などを文章中から探し出しては、それを台本に書き込んだ。