6くち 4
「ねえ遅いよ日国」
「準備します」
「台本読んだか日国」
「どっちのです?」
「汚い方だよ日国」
「汚名なるウェル・メイド・プレイ」の方だとマシューにはすぐに分かった。
「勿論です」
「じゃあ今日は『汚名』の読み合わせをしようか。"死刑台組"は引き続き『電気椅子』と『ガス室』の稽古で、あちしのお姉ちゃんの月美ちゃんが見てくれるよ。『ガス室』の日国の出番も、月美ちゃんが代理でやるから、皆さんよろしこちゃん。"汚名組"は光五雨と日国の読み合わせ」
花美先輩が仕切ると、部員たちはぞろぞろと向こうに行ったりこっちに来たり。
マシューも急いでジャージに着替えると、既に花美先輩の横に立って台本を確認している光五雨先輩の許へ向かった。
二人の近くに来ると、まずは台本に意見があるかを問われ、光五雨先輩はセリフの修正希望案や、気になる点を上げてゆき、花美先輩はそれに従って台本のセリフをボールペンで消しては、横に新しいセリフを加えていった。マシューも積極的に参加した。
印刷しなおした新しい台本は後日渡すことにして、今日は修正ばかりで見にくくなった台本で読み合わせをすることになった。
読み合わせが始まると、花美先輩は最後まで黙って聞くことに徹し、終われば「あの部分は」と最初から遡って、状況や背景などの説明を徹底してマシュー達に伝えた。
この「汚名なるウェル・メイド・プレイ」は、とある劇団に天才舞台役者として知られる、マシュー演じるカフカ・カートランドが入団し、皆で大きな舞台を作り上げる、と言うのが話の本筋だ。
しかし、劇団が求める役者の質とカフカが追及する役者の質が合致せず、過去、いくつもの舞台で天才として持ち上げられてきたカフカは、光五雨先輩演じるロマン・ハースに何度も大役を奪われ、自分は裏方か端役を演じることになってしまう。
プライド高く高慢なカフカの自尊心はメタメタにされ、次第に凶悪な思想を抱くようになってゆく。遂にはロマンを降板させる為に、彼を監禁して、裏方の自分が代役で舞台に立とうと画策を始める。
そのカフカが代役で立とうとする作品の名が、「華麗なるウェル・メイド・プレイ」と言う。
天才舞台役者の没落と、再び栄華を掴むまでの物語を四十五分ほどにまとめた作品だ。