6くち 2
初代演劇部が全国大会で最優秀賞と脚本賞を獲得した「世侃特攻隊」。
学生の、アマチュアの集まりとは到底思えない、役に対する姿勢。自分を曝け出し、押し出すことに臆面も無い堂々たる芝居。緊迫と高揚が入り混じった濃密な時間。公演が終わった途端、割れんばかりの拍手が舞台に向かって送られた映像に、マシューは感銘を受けて演劇部入りを決めた。
スポーツ校として名高い志士頭に、芸術でも活躍出来ることを証明した作品だ。
入部してからの一年間は、同期の一年生達が上級生に負けじと主役級の役を勝ち取るも、マシューは芽が出ないまま、裏方や端役(名前の無い役)を務めた。
二年生になってから、秋に公演予定の作品で脇役(名前のある役)で出演するが、他の同期と比べたら遅咲きだし、僅かな開花だ。しかし冬に公演予定のこの作品「汚名なるウェル・メイド・プレイ」で、準主役に選ばれた。
認められたんじゃない。でも、チャンスが来た。認められるチャンスが、自分にも回ってきた。
腹の底からこみ上げてくる、どう形容したら相応しいのか判別のつかない衝動に突き動かされて、布団から跳ね起きて、マシューはその場で台本を高い高いした。
「オシャシャシャオッシャー!ンンメェッフィィィ!!」
ついでに舞ってもみた。
日国家では楽器と舞踏、要は「音楽」は嗜みの一つ。思い付きの即興の舞いですら、順序立てた振り付けになってしまう。
マシューがにこやかに回っていると、
「どうしたマシュー」
バートが起きた。
ドンガラガッシャーン!
布団の上で足がもつれて滑って倒れ込み、目覚まし時計を蹴り飛ばしていた。
「別に!良い朝だ!」
「そうだな、おはよ」
「ああおはよう!」
いけないいけない。
つい周りが見えなくなっていた。
起き上がって、目覚まし時計とは逆方向に飛んで行った眼鏡をかけなおして、布団を雑に畳んだ。
隣で呆けて細目のままでいるバートを跨いで、学校のバッグに台本をしまいこみ、今日も、マシューの新しい朝が始まる。
カーテンを開けると、バートの目は一層細く閉ざされた。