5くち 14
「は…ん?……え?ちょっと待て。大怪我したってことだろ。なんで?」
「舞台セットの上でジャンプをしている最中に、興奮した客の女の子がぬいぐるみをステージに投げ入れてきて、それが運悪く直撃して、着地失敗の大転倒でセットからの大転落。その衝撃でやっちゃったわけだ。丁度テレビの取材が来ていて、カメラも回っていて、テレビに流されちゃったんだよな」
「待って。じゃあ、兄さんって、プロの舞台役者になったってこと?」
「もう一年も舞台に立っていないから、誰も覚えてないかもしれないけどね!ダハハハ!!」
ダラダラダラダラと冷や汗が流れ落ちていった。
「だから、ちょっとタバコやら酒やらにも手を出したい心境にもなっちゃったわけでさ」と言う釈明など、全く耳に入ってこなかった。
とりあえず、なにか発言しなければと急いたマシューは口を開く。
「そ、その客は?どうなったわけ?」
「謝罪されたよ。"出た結果に右往左往していても仕様が無いからあまり思い詰めすぎるな。気が向いたら舞台に戻るから、これからも応援してくれ"って言っておいた」
「それで、…いいの?」
もっと言うべきことがあるのに。
「言ったろ?当分は舞台に立てないと分かって、それを受け入れた。結果が出た後だったんだよ。それに、その客の女の子はもう俺以外から散々注意された後だった。泣いていた。俺一人くらいフォローする奴がいないと、あまりにも可哀相だ。せっかく楽しい想いをする為に観劇に来てくれたんだぜ。お互いツイていなかっただけさ」
「もう終わったことだよ」と綻んだ口元から紡ぎ出すバートのを表情を見れば、悔やみなど一片も見えやしない。
過ぎたこと、仕様が無かったこと、怒っても悔やんでもどうしようもなく、ならば、前向きなままでいよう。いつもの自分を貫き通して見せよう。
これが、バートラントと言う男なのだと言う、バートの強さが、その笑顔からは感じ取れた。
たった数年。
自分が十四歳で日本に来て、十七歳になった今の間。
僕がアメリカから移った、たった数年の間に、こんなにも変わったのか。