5くち 4
その時、バートに肩を力強く叩かれた。驚いて茶碗に落としていた視線を持ち上げると、彼は酷く誇らしげに笑っていた。
とても印象的で、マシューは彼のこの顔を当分忘れられず、後のこの言葉を生涯忘れないだろうと思った。
「お前みたいなヤツがリーダーに向いているんだよ。変化を恐れず、今を見て、先のことを考えて、周りの為にも、自分の意見をちゃんと主張出来るヤツ。誰に出来た?誰がやった?お前だよマシュー。生徒会長、考えてみたらどうだ?応援するよ。その制度だって、お前一人だったら採用されなかっただろ?支持者がいたから通ったはずだ」
拍手をしてからずっとスプーンを手放したままで、熱心に語り合いに応じるバートに釣られて、マシューも箸をただ持っているだけの状態になっていた。
あと三回も箸でつつけば空になる納豆ご飯の入った茶碗も、ただ手にあるだけだ。
「………まあ、…」
なんだか恥ずかしくなってきた。
バート相手に自分の考えを披露するのは初めてだし、しかもそれを全肯定されたのが、思いがけず、マシューにとってはとても照れ臭かった。
褒められることは何度もあったが、兄ほどではなかった。褒められるようなことを表立ってするのが兄だったから。
褒めてくれと報告しにゆく兄とは対照的に、マシューは自身の行いを公言しなかった。
気づいてほしいとは思っていた。いつかきっと気づいてくれると期待していたが、結局気づいてもらえたものは半分も無い。やるんじゃなかったと後悔したこともある。
こんなに真正面から、具体的に誰かに良く言われたことなんて一度も無い。手放しに拍手されることだって。
だって、僕のやることなんて、バートのやることと比べたらちっぽけなものだし、わざわざ胸を張るほどのことじゃないんだもの。バートのより薄い反応が返ってきたらどうしよう。こんなことで褒めて貰おうなんて卑しいのかも。
そう思うと、いつもなにも言えなくなってしまった。
「…うん、努力してみるよ」
「もうしているじゃないか」
「……し、してる?」
「改革を行って結果を出した。努力の結果だ。今のマシューのままでいれば大丈夫。ただ、生徒会長をやってみようと思うか、やらないと思い続けるかどうかの変化が必要なんだ。それだけだよ。お前は充分、よくやってる。努力しているよ。エライぞ!」
「…。……うん」
上手い返事が思い浮かばなくて、曖昧な返事をする。
マシューは何故だか震える手で、また箸を動かし始めた。
なんだか今、物凄く、両親に会いたいや。
今、会えたら、ちゃんと言える気がするのにな。
自分の喜びや努力を、一番に報告出来る相手が、いつだって欲しかったんだ。