さいごのヒトくち 11
そうして、卒業式当日。
式が終わるや、在校生や同じ卒業生達に囲まれ、制服のボタンどころか、ボタンが無くなった制服ジャケットとネクタイそのものを奪われてしまったマシューは、最後にネクタイピンをお茶会の彼女に貰われ、ワイシャツ姿でアルバムと卒業証書とビニール袋と、後輩たちから貰った花束を抱えて、校門前で友人たちとお喋りをしていた。
お喋りしている最中に、マシューは女生徒に何度か呼び出され、行きは二人で校舎裏に向かうも、帰りは一人で校門前に戻ってきた。
時間が近づくと、マシューは手に提げていたビニール袋から、彼らに約束通り、ガーベラの鉢植えを手渡しで贈り、ハグと握手をしてから別れた。
アメリカの家に帰ることは一部の友人にしか話していない。本当に大切な友人数名だけ。
友人らはマシューに「せめて半年に一度は会いたい」「アメリカ土産を楽しみにしている」「応援している」「三か月後に旅行に行く予定だけどホテル代を浮かせたいから泊めてくれ」と激励の言葉を受け、校門を抜けた。
帰り道、銭湯に向かい、佐々貴さん達にバートの分までお礼を伝え、ここでも色とりどりの花を沢山咲かせたガーベラを両手で優しく持って、二人に贈った。
二人もマシューを強く抱きしめて、マシューも二人の肩口に額を押し付けて、お礼と別れを何度も何度も繰り返す。
佐々貴さん達は最後に、マシューに「飛行機を待っている間にでも、ラントくんと食べて」と言って、いつだかバートに持たせてくれた重箱を渡した。
いつか返しにおいでと言うメッセージに違いなかった。
それを受け取ったら、また堪らない気持ちになって、マシューはもう一度二人を両腕で抱きしめた。
アパートまでの道のりを下校している最中、マシューは別れの挨拶の連続でまだドキドキとうるさい胸の辺りを擦りながら、ついでに鼻も啜る。
「はあ」
下唇を噛んで、既に潤んでいる瞳を擦らず、見開いて乾かして歩く。
擦ったら前方からやってくる親子に、卒業式で泣いちゃった多感な涙もろい男子高生だと思われるようで嫌だったからだ。
親子が通り過ぎると、すぐにシャツの袖を目元に当てて水分を吸わせた。
アパート前に辿り着いたのは、それから数分後のことだった。もうタクシーが到着している。待たせるわけにはいかない。急がなければ。
タクシーの運転手に、すぐ準備することを伝えると、駆け足で桜の花びらが積もる階段を上がって、借りている部屋のインターホンを押し込んだ。