さいごのヒトくち 7
アメリカを離れる飛行機の座席で、家族を想って寂しくなった。
一人きりの滞在中、何度も家族に会いたいと思った。
その度に、もはや思いつき一つで会える距離にはいないことを痛感した。
これが選択の結果の一部として、今後も自分を苛むのかと思うと、マシューはあと三年も耐えられる気がしなかった。
マシューはここで母国愛と共に、家族愛への認識も深めたのだ。
「日本人としてアメリカで生きることも出来るけれど、将来を考えたら、この先日本に住むパートナーが出来たり、日本で仕事を持たない限り、僕はあと十年、二十年も日本で生活するとは思えない。ほとんどの人生をアメリカで生活することになるだろう。その状態で日本社会に参加しても、立派に責任を果たせる気がしないんだ。僕はそれほど器用じゃないから、日本社会に参加する為に日本の情勢を追うほど、アメリカ社会を疎かにするかもしれない。それは、アメリカに対しても責任を欠くことになってしまう。だから、今の僕に一番必要な"家族"がいるアメリカにする。死んで墓をつくるなら、家族の傍が良いな」
「…良いのか?」
「言ったろ。どこにいても、もう僕は僕らしくいられる。またこうやって滞在しに来るよ。だって、ここが僕の生みの国なんだもの」
弟は白い息を吐いた。
「バートはどう思う?」
兄も白い息を吐いた。
「それがマシューに合う答えなら、俺はそれを尊重する」
マシューは、最後に手元の鉢植えの土を整え、立ち上がってバートを振り返る。
笑顔だった。真っ青な空の下、マシューは街を一望して、バートをもう一度振り返って、目元に力を込めて笑った。
「ありがとう。僕、ここが大好きだ」
初めて見たその笑顔一つで、大きな舞台が作れそうな気がした。




