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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
さいごのヒトくち「ヒトくちばなしっ!」
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さいごのヒトくち 6


「切り花をしていたのも、一番良い状態のものを渡したかったからなんだ。次の開花は、沢山花を咲かせて、沢山種を残してほしいなあ」


「…そっか」


「今時、花なんて贈っても迷惑かなって思ったんだけど、皆、"マシューがくれるものならなんでもいい"って言ってくれたんだ。僕が出来ることでなにかしたくて。しばらく会えなくなるから。最初から、高校卒業と同時に、当分はアメリカで家族の時間を持つって約束だったしね」



 先ほどまでいた神社から、新年の鐘をつく音がボーンと響く。

 それ以外では、車やバイクの走行音も人の声も無く、風の吹く音が耳の中でビュービューと叫んでいた。



「…寂しいか?」

「うん」



 マシューは淡泊な返事をして俯いて、次の鉢植えに取り掛かる。

 バートは一歩下がった場所で、マシューの背と屋上から見える街の様子を交互に見て、どちらに視線を集中させようか迷っていた。



「このガーベラを育てて半年以上経つけど、ずっと寂しい」

「……だよな」



 バートは何とも言えない気持ちになってきていた。

 なんだか、胸の辺りがそわそわするようで、マシューの顔色を覗くように前かがみになって問うた。自分の予想が違っているような気がしたのだ。



「…その、…アメリカに…するのか?」

「僕は日の丸背負った日本人の、マシュー・メルナード・日国だって言ったな」

「…分かった」

「聞いて、バート」



 いつの間にか、土を弄っていたマシューの手は止まっており、正午に近づき、天辺に昇る太陽に照らされる街を見ていた。

 寒いのか、鼻の頭と耳が赤くなっていた。



「僕、アメリカに帰るよ」

「……」

「僕は日国家のマシューでもある。僕はもう、どこに行ってもマシューでいられるから。家族の傍にいたいんだ」



 呆けた顔をするバートに、マシューは「日本に残る」ではなく、「アメリカに帰る」と言った。

 酷く寂しそうに、けれど、あまりに穏やかに。



「国を選ぶって言うのは、どの国に対して愛情と責任と忠誠心を持って生きて、そして死ぬかってことだと考えている。感情だけの安易な判断をしたらきっと後悔するし、両国に対して礼を欠くことにもなる。だからこれは、どちらの国も好きな僕なりに、よく考えて出した答えなんだ」


「……」


「ここが、僕が生まれた国だ。ここが、お前が教えてくれた、マシュー・メルナード・日国が始まった場所だ。ここに来ていなかったら、自分にとっての大事なことを考えつくことはなかった。でも、」


「……」


日本(ここ)に僕の家族はいない」

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