さいごのヒトくち 1
さいごのヒトくち「ヒトくちばなしっ!」
アメリカの思想家、哲学者、作家、詩人、エッセイストである、ラルフ・ワルド・エマーソン曰く、「私は引用が嫌いだ。君の知っていることを話してくれ」
高校生活最後の冬休みに突入し、年が明けたばかりの朝。元日。
「新年明けちゃってました。今年もよろしくお願いしました」
「えーっと、しんしゅんをことほんで、つちんでよろこべ…なんだっけなあ。俺、調べたんだよ、日本式の丁寧な新年の挨拶。難しくて忘れたなあ」
数時間前、つまりは昨年の事。
年越しそばを食べて、定額制の動画配信サイトを通して爆発と銃撃音が満載の激しいアクション映画を見ることで、目をバッチリ開けて年を越そうと思っていたけれど、もう夜更かしは出来ない体になっていた。
二人とも、二十二時半になる頃には座るのに疲れて布団に横になり、肘をついて映画を見ていたけれど、気づけば隣のマシューは眼鏡をしたまま寝息を立てていた。バートは彼の眼鏡を取ってやり、それを遠くに置くと、電気も消さずに自分も瞼を閉じた。
そうして朝、二人の布団の間に置いて映画を流していたパソコンは、どちらが蹴り飛ばしたとも言えない足下に転がっていた。
朝日が眩しかった。
とりあえず、二人はいそいそと寝癖頭のまま、くちゃくちゃの布団の上で正座をして頭を下げ、新年の挨拶を交わした。
頭を上げると、マシューは切り替えて、「あーあ、初日の出見たかった」と言うも、大して気にしていないようなあっけらかんとした声色で立ち上がり、洗面所に消えていった。
まだ皺くちゃの布団の上で足の開いた正座をするバートは、夢に見た"マウントフジ"と"ホーク"と"エッグプラント"はなんだったのだろうと考えていた。
結局、マシューから「早く動け」と急かされて、なんの夢を見たのかはすぐに忘れてしまった。
朝食にはマシューお手製の雑煮と、スーパーマーケットで予約していたおせちが並んだ。バートはどうやらおせちの内容が気に入らなかったようで(特にかまぼこと昆布巻き)、黒豆と栗きんとんと伊達巻を食べて、あとは一人で餅を追加して雑煮を何杯もおかわりをしていた。
この餅が、アメリカの刑務所にいる大量殺人犯よりよっぽど人を殺しているとは、到底口に出来ないほどおかわりをしていた。
正午が近くなると、マシューは余所行きの格好をし出して、バートも「そういえば昨年も外出した気がする」と思い出しながら厚手のコートをクローゼットから取り出した。