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【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
17くち「舞台の上から客席へ!兄弟二人のB&C!!」
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17くち 23



「でも下手をしたら、僕の場所と取って代われるほど近くにいることに気が付いてから、僕はお前が嫌いになったね」



自尊心の脆さ、自身の危うさにようやく気が付いた。

このままではいけない。いつかマシューが消えてなくなってしまう。

自立、独立心が芽生えた瞬間だったのだ。



「でも、もう怖くない。お前も他人になったからだ。僕も自分を認められた。誰にも絶対に超えられない僕自身が、僕にもちゃんといる」


「……」



マシューは椅子の肘起きに手をついて立ち上がると、バートを見下ろした。

バートも静かにマシューを見上げた。

口は半開きだった。



「僕らは対等だ。僕も自分に夢を持っている」

「……」

「実があって尚且つ楽しいことなんて、お前と僕にとって、舞台のことだろうバーカラント」



そうだった。ずっとそうだ。これからだってそうだろう。そうしていきたい。

ここが現実を夢見る場所で、夢を現実にする場所だから。

だって、バートラントは、舞台で生きて、家で死ぬような男なのだから。



「………ああ。…ああ」



二度、肯定の意思を示す。

すると、マシューは質問を寄越した。

二人とも笑みを湛えていた。



「もう一度聞くぞ、バート」

「ああ」





そうして思い出している内に、ようやく志士頭学園高等部演劇部の順番が回ってきた。

前の学校の生徒たちが下がり、幕が下りると、司会者が四十分ぶりに舞台に現れ、進行表をマイク片手に読み上げる。

先ほどの学校の生徒たちへ労いの言葉をかけ、作品に対する生徒たちの意気込みがどうであったかを語った。


しばらくの休憩を挟んでから、司会者は次に控える志士頭学園高等部演劇部と、演目「Box and Cox/(ボックスアンドコックス)」、脚本日国マシューを読み上げ、待ちに待った真心に詰まった舞台の幕が上がる。

周りから開幕の拍手が上がり、バートも舞台に向けて拍手を送った。心はとても穏やかで、バートは閉幕まで終始にこやかだった。

間違いなくこの瞬間から、バートラント・メリカン・日国にとって、マシュー・メルナード・日国は、自分の目指す役者の完成形となったのだ。



アメリカ合衆国の俳優、ジェームス・ディーン曰く、「良い役者になるのは簡単なことではない。一人前の男になるのはもっと難しい。終わりが来る前に、僕はその両方でありたい」

もう一つ、アメリカ合衆国の飛行家、作家である、リチャード・バック曰く、「家族を繋ぐ絆は、血ではない。お互いの人生に対する尊敬と喜びである」



閉幕の時、バートはめいっぱいの拍手をもう一度舞台へ送りながら、先ほどのマシューの質問を思い出していた。

そのマシューは今、舞台上から客席を見上げて誰ともなしに、先ほどの質問とまったく同じ最後の台詞を投げかけている。

舞台から客席に向けて左掌を捧げる姿はまさに、マシューが今出来る、自著で特定の人物へ感謝を述べる「献辞(けんじ)」を行動に表したものだったに違いない。


挿絵(By みてみん)



「"昨日は良い日だったか?"」



バートの拍手の音は最後まで残り続けた。

今すぐに言葉以外の方法で、この気持ちを伝えるにはどうしたら良いのだろうと考えて、この拍手に任せることに、一生懸命だったのだ。


"今日も良い日であった"と。


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