17くち 22
…
「なあ、いつ頃分かる?」
「何度も何度もうるさいなあ」
翌日。全国大会の会場に入り、マシューは既に控室へ行っている。
次がマシュー達が所属する"志士頭学園高等部"による公演だ。
バートは客席に座り、舞台から他校の演劇を見守りながら、マシューとの会話を思い出していた。
控え室に向かうまでの間、マシューはバートを指定の客席まで連れてゆき、ポップコーンもジュースも出ないことを伝えて、時間ギリギリになるまでバートの話し相手になってやっていた。
その時の言葉が、先ほどのものだ。
「なあ、いつ頃分かる?」
「何度も何度もうるさいなあ」
「実のある…なんだっけ」
「もう黙って待っていなよ」
「なあってば」
「……まったくしかたがないなあ…。これだからバーカラントはなあ…」
うんざり。
顔にそう書かれているようであった。
「舞台のことだよ」
「舞台が実のある…なんだっけ」
「はあ~っ、一から説明しなくちゃ、やっぱりお前には伝わらないんだなあ」
頭が痛い。
今さっきの"うんざり"の上に新しく書き込まれた。
けれど、嫌な気分ではない。
「あのさ、僕らって趣味とか似ているだろ」
「お互いだけの趣味もあるけど、本当に大事な趣味は結構共通しているな。家族の良いところだよな」
「…でも、だからって性格までまったく似ているなんてことはなくて、むしろまったく違うだろ?ものに対する考え方もそれぞれ異なる」
「ああ。俺とお前は家族だけど、他人だからな」
「そうだな。実力もまったく同じにはなれっこない。僕らにはそれぞれ能力に見合った役割がある。自分じゃないから、憧れもするんだ。自分を知ることにもなるんだ。自分を振り返った時に、そこにいるのは僕一人じゃないって分かるんだ」
隣の席に腰かけているマシューは、まだ開場していない舞台を見まわして言う。
まるで、客席に昔の自分と、その時の自分にとっての大切な他人を見るかのように。
バートもその視線を追ったけれど、客席には誰もいない。
ただ、隣にマシューがいるだけだった。
それが何故だか分かった気がした。
「振り返った先に、父さん、母さん、日国のお祖母ちゃん、お祖父ちゃん、親戚の皆、学校の先輩後輩、友達、世話をしてくれた恩人、僕なりの、色んな人がいる。その中で、昔の僕の一番近くにいるのは、いつもお前だ」
憧れていた。羨ましかった。
最も近しいその人を尊敬していた。




