17くち 19
自分の気持ちを言葉にして、一語の羅列と声色を改めて自分の耳で聞いてみると、客観的に今の感情が感じ取れて、なんだか猛烈に腹が立ってきた。
そしてこれが、マシューなのだろうと感じた。
「私(僕)を見ろ、私(僕)こそを」
「誰でも構わない。私(僕)を見てくれ」
自分自身に置いてけぼりにされてそう叫び続けていたマシューが、自分の中で居場所を得たような気がする。
バートの手の中の飲みかけの抹茶は既に冷めきっており、マシューも残りの一口を飲んで、頭を冷やした気分になった。
「…バート、出来ることなら、お前にはお前がやりたいこと、全部を叶えてほしいよ」
「…?」
「夢があるだろ。家族とか、夫とか、学校以外にもあるだろ多分。そういうのを、全部実現してみせてほしい」
「マシュー…?」
「それで、改めて、バートラントに憧れたいんだ。今度はもう憎まないから。ちゃんと出来るから」
「マシュー…」
「昔の僕は正しかったと今の僕で言いたいんだ。これからも」
「……」
「……明日言ってやる」
マシューは空になった茶饅頭の包み紙を屑籠へ、空の抹茶腕を手に立ち上がると、「帰るぞ」と言って、返却台越しに「ごちそうさまでした」と声をかけて抹茶腕を返すと、店の外へ歩いて行ってしまった。
ポカンとしたまま置いてけぼりにされたバートは、慌てて抹茶を飲み干すと、自分も返却台越しに「ごちそうやまでした!」と声をかけて、早歩きでマシューを追いかけた。
走ったら、迷惑がかかると怒られそうな気がしたのだ。
一度家に戻り、荷物を持って銭湯に着く頃には、マシューは気持ちを切り替えたようだった。
佐々貴さんに挨拶をしてから入った脱衣所で、片手でシャツのボタンを、もう片手でベルトのバックルを外しながら今や鼻歌なんて歌っている。
マシューは感情を引きずりやすいタイプだと思っていたから、今の彼がちょっぴり不思議だけれど、良いことだからいいや、と目をつむることにした。
バートは関節の曲がり具合が悪い両手で上着を脱ぎながら、マシューの機嫌を横目でよく伺ってから話し始めた。
「なあ」
「はい」
「お前って、いつから俺を尊敬し始めたんだ?」
突然の質問に、マシューは先ほどまでの機嫌の良さはどこへやら、じっとりした目でバートを見た。
逆に、バートは嬉しい答えしか返ってこない話題だからだろう、口元がにやけている。