17くち 18
「お前こそなんでそんなこと言うんだよ。お前の一生は、昔の僕と直結しているんだぞ。お前が自分をダメだと思った時、昔のボクまでダメになるんだ。お前に憧れた僕諸共、道連れで無意味になるんだよ」
「……」
「お前に分かりやすく言ってやろうかバーカラント。プロの野球選手が、自分もあなたほどの名選手になりたい、とても憧れていると絶賛し告白する野球少年に向かって、"自分なんて全然ダメダメだ。実力なんてまったくないんだよ。グラウンドに立つのも恥ずかしい。正しい僕の姿が見えていないキミの目が心配だから眼科に行くことをすすめるよ"と言ったらどう思う?彼は自分を卑下しただけじゃない。彼を応援する人、彼の背を目指し追い越すことを夢見る人々すらも侮辱したことになるんだ」
「……」
「自分が心の底から尊敬して褒め称えている偉人の口から、謙遜ではなく自分の能力を貶め、辱めるような発言が飛び出て来たらどう思う。サミュエル・スマイルズ曰く、謙遜とは自分を正しく評価することだ。自虐することじゃない」
「……」
「本当のプロフェッショナルはな、自虐するとそのジャンルに関わる人々を道連れにすることが分かっているからやらないんだよそんなこと。自分の価値を理解してそれを示すのは、周囲に対する責任でもあるんだ。自分を持ち上げてもらう為に見せかけで卑屈になったりもしない。自分のやることに誇りと自信を持って真摯に臨んでいる人は、決してそんな不誠実なことはしないし、下手な予防線も張らないんだ。たとえアマチュアだとしても、本気で取り組むプロフェッショナルの心を持っている人は、決してやらないんだ。お前の生みの母親が、お前のことをプロの役者だとかプロの人間だとか御大層なことを言っていたけどな、今のお前は僕から見て、憧れて、その為に費やしてきた時間を後悔しそうになっているくらい、恥ずかしい存在だ」
「……」
「本当に偉大な人間は、凡人にも夢を見させてくれる器量のある人のことを言うんだ。僕はお前がそうだと信じている。僕との約束事で逃げ腰になったりしない。お前は僕にとってプロフェッショナルなんだ。お前がアマチュアだった頃から、僕はずっとそう信じてきた。だからお前が嫌いで自分が恥ずかしかったんだ」
「……」
「認めてやるよ。お前はただのスーパーヒーローじゃない。でも、お前が僕の憧れだったことは一生ものなんだ。僕はそれを守りたい」