17くち 16
その後も熱く捲し立てられて押しつけられたバートは、結局、作務衣と甚平と浴衣を購入して、次に同じ百貨店の別の店に移動した。
アジア系の茶葉専門店で、メインは日本茶と中国茶だ。いつだかの紅茶専門店のようなことをするとまたぞろ怒られるので、マシューが勧める茶葉を一通り購入するだけに留めた。
バートは一番に抹茶に目をつけたが、マシューはそれよりも「あらゆる茶葉と穀物がブレンドされたこの麦茶は、僕が飲んできたお茶の中で一番美味しい。当分これを超えるお茶は現れないはずだ」と麦茶を絶賛し、ならば日本人の父も好むだろうと考えたバートは大缶を購入した。
他にも雑貨コーナーでカイロとお香を、奇妙な服屋で自分の名前入りTシャツの注文を、有名老舗の支店から茶碗と包丁と箸と爪切りを、食品売り場で食玩や日持ちの良い食品を買い込んだ。
大量の荷物をアメリカの住所宛に発想の手続きを終えて、バートもマシューも一息つこうと、網走本舗と言う有名な和菓子屋の商品を取り扱う休憩所で、茶饅頭と抹茶を注文して、ベンチに並んでおやつにしていた。
「なんだか、ちょっと疲れたな」
「日国家は母さんを除いて、なにを買おうか迷いながら長々と買い物をすることに慣れていないからね。その時に必要なものだけを手に入れることが目的であって、買い物をすることが目的ではないから」
「目の前に色々なものが雑然と並んでいるのを見ると気持ち悪くなるな。百円均一はおもちゃが沢山あるから楽しいんだけどな」
「でも、今日のは必要なことだよ。いつまでも日本にいるわけじゃないんだから」
抹茶を飲みながら、バートはハックドナルドぶりに暗澹とした顔を見せた。
もはや怒りも沸かず、呆れて溜息を吐くマシューだった。
「あのさ、舞台が嫌でもアメリカが嫌になったわけじゃないだろ」
「そりゃあな。でも、アメリカにいたら、舞台に戻ることしか考えられなくなる気がするんだ」
「日本に居残っていても僕が舞台のことしか考えられなくさせてやるぞ」
「怖いこと言うなよ」
「戻るって約束しただろ」
「したけど、時間はかかるって言っただろ」
「ああそうだ。でもそれは舞台の話で、僕の卒業でお前がアメリカに帰ることに変わりはない。舞台に戻る為に時間をかけるのはアメリカですることだ」
バートは落胆で肩を落として溜息を吐いてまたそっぽを向いた。