17くち 11
しかしバートも、先ほど伏せたカードを裏返す。
「ここでリバースジャマー発動だぜ!"グレートコスモイーター・イェダーク"を盾として…」
言いかけたところで、マシューも手札からカードを出した。
「押し通る!クイックジャマーを発動!"杖折り"の効果で、マリーの攻撃力1000ポイントを代償に、相手のジャマーを即座に無効化する!」
「げげぇ!」
「これにより"マジカル・パニック"の効果は履行され、ツァーリの攻撃力は0だからコピーの対象外。つまり、対象内の防御力の数値が、杖折りの代償で400ポイントになったマリーの攻撃力に加算されるから?」
こんなにもイキイキした悪戯顔のマシューは初めて見た。
バートは苦笑いで答えた。
「ま、…マリーの攻撃力は6600」
「大正解っ!ツァーリの防御力、6200を上回った!"血みどろ魔女マリー-ブラッディ・ウィッチ・マリー-"で、"星守りの善き王-スタークラスター・ツァーリ-"を攻撃!」
その後のマシューは「ぼっくのっ勝ち~」と歌いながら、もう一つの趣味のガーデニングの為にじょうろを持って屋上へ。
残されたバートは敗北した自身のエースソルジャー・ツァーリと、手札と、デッキを見つめ、「負けたってことは改良の余地があるってことだ。落ち込むのは五分だけにするぜ」と、険しい顔をして独りごちていた。
屋上にやってきたマシューは、鼻歌交じりに上機嫌で横並びのプランターの土に水をかける。春に植えたガーベラと、夏に植えたウインターコスモスが順調に成長している。
他にも、リコリスやスプレー菊と言う秋の花が並んでいる。
リコリスは、日本では彼岸花、曼珠沙華と呼んだ方が馴染み深いかもしれない。
ガーデニングは母に影響されて始めた趣味だ。
バートがペットと共に成長してきたのなら、マシューは花と共に成長してきた。
楽しいのだ。
達成感もあるし、その時によって異なる草花を育ていると、季節をより身近に感じられる。草花も立派な生物であり、ペットと同じように、その生死を間近で見守ることが出来る。
それに、何か月か先に咲き誇る花のことを思うのと同じくらいに、その時の自分はどうなっているかを一緒に考えてみる。ほんの数か月だから、具体的な未来が想像出来る。
花の成長と自身の将来を考えるのが、マシューのガーデニングの楽しみ方だった。
なにより、正しい知識を持って手塩にかければ、努力に対して形を持って、なるべく早くに応えてくれると言うのも嬉しい。
次の花が咲く春の頃、自分はどうしているのだろう。
秋の花々を前にして、マシューは今日も夢想する。
ほんの数時間先のことから、数か月先の事まで。
マシューは自分を信じていた。