17くち 5
寝転がってまた床に肘をつき、頭を支えてパソコンに向き直る。
またしばらく野球中継を見守っていると、段々眠たくなって来る。
その内眠気に負けて、振り逃げで走り出す選手の背中を見ていると、頭を支えていた腕が外れて、カクンと床に頭がついていた。
「バート」
目が覚めた。
ああいけない。
いつだかの夕飯を作らずに昼寝してしまった寝坊事件が脳裏を横切って、バートは眠気が抜けないまま急いで起き上がった。
「ああっ、夕飯をっ、今すぐっ」
「なにを寝惚けているんだ」
跪いてバートを揺するマシューの片手には、バートが佐々貴さんから持たされてきた重箱がある。
どうやらもう銭湯から帰ってきたらしい。石鹸の良いにおいがする。
時計を見ると、さっきよりも時計の短針が一つ進んでいるような気がした。
「あれ?」
「寝るなら歯を磨いて布団を敷いてからにしろ。それに電気をつけた明るい中で寝るな。睡眠の質が悪くなるし、そろそろ寒くなってきたんだから、風邪をひくぞ」
「…あれ?」
「ほら」
動け動け、と手でバートを追い払い、マシューは重箱をテーブルに置いて掌を合わせて「いただきます」をした。
バートは呆けた頭のまま洗面所で歯磨きをした後、少し覚めてきた意識で布団を敷きながら、マシューを振り返った。
ああそうだった。
佐々貴さんから持たされた重箱があったっけ。
「その弁当はな、佐々貴さんから」
「銭湯で聞いた。"らんとくんに持たせたよ"って」
「そうか」
部屋の隅に畳んで置いていた布団一式から、まずは敷布団。
広げて慣らす。
「部活はどうだ?順調か?」
「皆とても張り切っていて、なんだか大火って感じだよ。張り切り過ぎて、本番に小火にならなきゃ良いんだけど」
「緊張しているのさ、きっと。少し息抜きさせてやっても良いかもな。でも、ある程度の緊張感は必要だぜ」
次は掛布団。
やっぱり広げて慣らす。
「うーん、なら、明後日の部活は丸一日休みにしようかな。皆には早く家に帰るでも、遊びに行くでもしてもらって、翌日から、また一緒に頑張ってもらおう」
「うん、そうしたら良いぜ。お前も休めよ」
「あー、僕は明後日は次の生徒会長に引き継ぎとアドバイスをしてほしいって言われているから。その後に部活に行こうと思っていたんだ。部活が休みならもっと丁寧に教えたいし、帰りはいつも通りかな」
「ありゃあ。お前は本当に忙しいヤツだなあ」
最後に枕。
今日干した枕カバーに包んで、布団の上に置いたら叩いて慣らす。
「まあでも、今が一番忙しいけど、今が一番楽しいから」
「それなら良いけどよ」