17くち 2
最後の学生生活。それも映像に残るものでこんな役柄だなんて。
殻を破ること、一皮剥けることは大切だけれど、果たしてこの殻だか皮は、破いたり剥いたりした方が良かったのか、分からない。
とにかく、後世に長く残らないことを、もしくは自分がこの話を早く笑い話に出来るような大人に成長出来ることを祈るばかり。
花美先輩には悪いけれど、治ったばかりの溜息の癖が再発してしまいそうだった。
文化祭が終わった後も、学校新聞で散々、称賛なのだか揶揄なのだか分からない評価を受けた挙句、脚本家として映像を見たいと言ってわざわざ学校までやってきた花美先輩に"絶妙に"褒めちぎられたマシューは、土曜の昼間、勉学の復習に勤しみながら、また溜息を吐いた。
「マシュー、もうたくさん落ち込んだろっ。そろそろ元気なお前を呼び戻そうぜっ。一生懸命やったんだ、恥じることはないさ!」
「一生懸命やったから恥ずかしいんだよ!いっぱい寝たから起きようねっ、みたいに言われても無理なの!ああいうのは僕みたいな"しかつめらしい"ヤツにやらせるんじゃなくて、もっと似合う誰かがいたはずだ!」
しかつめらしい。鹿爪らしいと書く。
型にはまったような、真面目で堅苦しいことを言う。
「いるわけないだろ。キャスティングされたのはマシューなんだぜ」
「花美先輩と同じことを言うな!もうっ!視聴覚室で椅子を並べて自分のマジのお色気シーンを二人きりで見て、それを大真面目に、現役爆売れ作家の語彙で絶賛された僕の気持ちが分かるか?言葉が服を貫通して素肌を隈なくまさぐられたような感覚だったんだ!言葉選びが妙に生々しかった!めぅぅぅ…あんなのセクハラだ!あの人のことを尊敬していたのに、なんだか嫌いになりそう!あの人は僕のことを勘違いしているんだ!」
いや、僕があの人を勘違いしている可能性も否めない。
彼女が言っていた"妄想"でやらされていたことがあれかもしれない。
本当は、尊敬すべき作家ではあれど、人ではないのかもしれない。
「そこまで嫌だったのか。と言うか、花美先輩と言う人は、…捕まるべきじゃないか?」
「いや、どうせ一過性の怒りだよ…。すぐに元に戻るって。問題無い。あの人の作品のクオリティーは、あの人の気持ち悪さから生まれるものなんだ。気持ち悪さあってこその実力者なんだよ。気持ち悪い花美先輩がいたからこその志士頭学園高等部演劇部なんだ。マジリスペクト」
「突然客観的になったな」
バートが昼食の色付きそうめんを持ってくると、マシューはテーブルに広げていた教材を床に下ろす。