16くち 18
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ニューヨークからサンフランシスコまでの飛行機内で、二人は空港で購入した、噂のハンドルドーナツのハンドル付きドーナツを食べて過ごした。
上下に真っ二つになっているシュー生地のクルーラーの間に、生クリームとスプリンクルがたっぷり挟まっており、クル―ラーの上からカラフルなチョコペンで彩られている。甘味の暴力とも呼べるくどい甘ったるさだけれど、時々食べたくなってしまうようなカロリーボムだ。
バートとの早朝ドライブで食べたコンビニのドーナツよりよっぽど美味しいドーナツの味に、マシューは座席でガッツポーズをして足踏みをしていた。
調度日没後に、二人はバートの家に帰って来た。
玄関を開けて「ただいま」と声をかけるや、事情は知っているだろうに、ダンケは「ねえ、ただいまよりも俺が今一番聞きたい言葉は知っているよね。"ディナーイズレディ"だよ。早く」と不貞腐れた顔で言いつけてくる。
バートの背後にいるマシューは「奇遇だね。僕らがダン兄から今一番聞きたかった言葉もそれだよ」と小声で呟いていた。
くつろぐ暇も無く、バートは荷物をマシューに頼み、玄関まで出迎えに来たバーゼルと、バーゼルの背にしがみ付いているタコのハニーダリーをそれぞれ一撫でしてから横切って、キッチンへと向かう。バーゼルも向かう。その際、ハニーダリーはバートの太腿から胴体へとよじ登っていた。
玄関に残ったダンケとマシューは一瞬だけ顔を合わせたまま黙りこくっていたけれど、ダンケは何も言わずに視線を逸らして、バートに声をかけて二階の自室に上がって行ってしまった。
「コーヒー買って来たよね」
「ああ。戸棚に入れておくから」
「ディナーが出来たら呼んで」
「呼んだらすぐ来いよ」
二人の会話を玄関に突っ立ったまま聞き、マシューは最後に、もう一度だけ玄関扉を開けて外の空気を吸ってから、扉を閉めて施錠をして、玄関土間で靴を脱いだ。
その場で一息ついて、トランクケースを引っ張ってカウチソファまで歩いた。
「やっぱりニューヨークより、サンフランシスコだな。のんびり出来るし」
結局、リビングで計画していた宿題にも台本にも取り掛からず、夕食を済ませて風呂に入って歯を磨いてトイレに行くと、迷わずベッドに倒れ込み、飾り枕を抱きしめて眠った。
ダンケは趣味のクロスステッチで、枕カバー制作の続きを一時間と、翻訳の仕事をしてから、日付を跨ぐ頃に二階の廊下の壁に背を預けて眠った。
バートは自室のベッドの上で、ホームプラネタリウムを散々つけたり消したり弄り回していたら、睡眠用BGMのα波音楽のおかげで寝落ちてしまった。