表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【挿絵131枚+漫画78頁有】ヒトくちばなしっ!B&C  作者: ほやざ
16くち「西から東へ追いかけて!僕から逃げるなバートラント!!」
221/270

16くち 14


 眼前のマシューは険しい形相のまま、バートの胸倉を掴みあげて大きく揺らし、襟ぐりを伸ばしながら、彼の胸板を音が鳴るほど一語事に叩いた。



「ようもっ、背中なんてっ、見せてっ、くれたなっ!のくてぇんやっちゃ、こんクソタレ!ひってアホじゃ!」

「……うう……んぁぁ」



 マシューの言っていることがさっぱり分からなかった。

 時々マシューは日本語なのかよくわからない言葉で怒鳴ることがあるけれど、今日はその日らしい。

 怒っていることを理解するだけで精一杯のバートに、マシューは更に畳みかける。



「なんか言いねまコラァ!ほれで日本男児の血ィ入っとんのかぁ!」

「分かった!分かったから!逃げないから怒鳴るのはやめてくれ!」



 マシューは「やめてやるかバーカラントめ!」と興奮が収まらないまま、バートを突き飛ばした。



「家族が話しかけているのに、返事の一つもまともに出来ないのか!どんな教育をされたらそんな態度が出来る!」


「…えーっと…」



 マシューからしたら信じられなかったのだろう。

 会いに行った家族と対面した途端、まさか背を向けられるだなんて不誠実なことを、あのバートにされるとは思わなかった。

 中国人に勝るとも劣らない家族を大切にする心を持つバートが、家族から逃げる背中なんて見たくなかった。



「僕はお前の家族だろ!お前は僕の家族だ!」

「…うん…」

「次は無いぞ!無くせ!」

「…はい」

「目を見て言え!」

「ごめんなさい」



 マシューは怒鳴り終わった後も、興奮が収まるまでブチブチと「お前こそタイムアウトだ」と愚痴を垂れ流していた。

 バートの視界の端を歩いてゆく人々は、今も何事かとこちらを一瞥(いちべつ)してから素知らぬ顔で歩いて行ったり、バートの存在に気付いて写真を撮ってゆく。

 家族に特大の雷を落とされている真っ最中の写真だなんて、と気にしている暇は無かった。


 沸騰していた頭が冷えてくると、マシューは「冷静さを欠いていた」と、珍しく何も考えずに突撃したことを後悔し始めているようで、さっきまでは真っ赤だった顔が今は真っ青に見えた。

 車道では各国のさまざまな車が、歩道でも各国のさまざまな人々が行き交うのに、バートとマシューが歩道の端っこでポツンと突っ立っている。


 なんだか居心地が悪くて、バートはすぐ近くにレストランがあるからと言って、マシューを連れて店の奥の席に案内してもらった。

 マシューはアイスティーを、バートはアイスコーヒーを飲んで、一息ついた頃。



「さて」



 マシューが一言呟くと、バートはまた酸っぱい顔をして俯いた。

 二発目の雷に供えて、高所にある頭を他の物より低くしようとしているのだ。

 そうしたら自分に当たる可能性は低いはずだ。雷は高いところに落ちるに決まっている。

 けれどそれは自然が落とす雷に限った話であり、人が落とす雷は特定の人物に確実に落ちるものだと、バートには考え付かなかった。


 マシューはこれ以上怒る気が無かったので、ただの杞憂だったけれど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ