16くち 9
バートは声の無い短い悲鳴を上げた。舞台の上から一度だけ激しい吐息が響く。
手足が痙攣を起こして関節を曲げられない。指先と足先の末端は途端に冷たくなるのに、上半身が酷く火照って、蛇口を思い切り捻ったかのように涙と汗が一斉にこぼれ出る。
顔の筋肉に力が入らず、唾液が垂れているのに半開きの口を閉められない。
心臓と喉の辺りに酷い圧迫感を感じて息苦しい。心臓はこの胸を突き破って外へ飛び出そうと、バートの胸を激しく上下させる。赤ん坊が胸の中で胎動しているようだ。
興奮で脳みそが萎縮したり膨張したりを繰り返しているのか、不思議な感覚が頭にある。金切声のような耳鳴りまで聞こえてきた。
息も絶え絶えに行った口呼吸がつっかえて、自分の唾液で溺れそうになり、次第に泡を吹き始める。喉も舌も使い物にならない。
成す統べなく、見えない何か、形の無い何かに全身を蹂躙されたまま、客席を見ていた。
その中で、這いつくばった台無しの舞台から見上げた沈黙が、自分を否定するかのようだった。なにもかもから切り離され、追いてけぼりにされてしまった孤独感に襲われる。
言葉を失い、次第にざわめく観客たち。咄嗟に駆け寄ってくる他のキャスト。
誰も彼も、口元を掌で覆ったり、涙を浮かべたり、蒼白な顔でバートを見下ろしている。
その中から駆け寄ってきた監督は、震える手でバートの体に触れて、赤ん坊にげっぷをさせるように上半身を抱き上げて背を叩き始める。床についている膝が酷く痛むけれど、それを伝えるほどの元気は無かった。
背中を叩かれ、抱かれたまま上半身を時折揺さぶられると、咳が出て、同時に喉につっかえていた唾液や泡が流れ出てくる。
呼吸が安定すると、監督はやはり赤ん坊をベビーベッドに寝かせるように、バートを仰向けにして舞台に下ろした。
仰向けに下ろされる時、曲げていた足を真っすぐに伸ばされる激痛に、たまらず顔を覆いたくなったが、腕は痙攣するばかりで持ち上がらず、吐息だけがか細く漏れた。
監督はヒロイン役のイェーダに、「うつ伏せだと胸を圧迫させてしまうから仰向けに寝かせるが、今のバートは筋肉が上手く動かせない。だから舌が落ち込んで気道が塞がり、また泡を吹く可能性がある。呼吸が落ち着いたら、体を横向きにさせて刺激しないこと。それから、他のキャストにタオルを持ってこさせるから、万が一彼が漏らした時の為に使うんだ。いいね、やるんだよ」と指示を出している。
落ち着く間もなく救急車を呼びに向こうへ行ってしまう監督に「待って、舞台を続けてさせて」と訴えようとするものの、喉に力が入らず声が出ない。他のキャストに「行かないで、起こして」と伝えようとしても、誰一人その意図を汲み取ってくれる者はいない。
慌てて舞台のあちこちを行き来する大勢の足音が耳の中で籠って響いてうるさい。