16くち 6
「俺は、バートを見て羨ましいとは思わないね」
人の意見なんてそれぞれだけれど、ダンケは自分の言葉に共感を示してくれるような気がしていた。
なんとなく、自分とダンケは似ているような気がしていたからだ。
似ても似つかないけれど、根底の価値観は似通っているような、そんな気がしていたから。
どうやら違ったようだ。
「どうして?」
「身を削って俺に尽くしてくれる人だ。尊敬している。あの人が連れて行ってくれるところなら後戻りが出来ないほど遠くても構わない。どこへでもついて行く。俺にはそれしか出来ない」
「…そんな」
「聞いて」
「……」
「…バートは、俺に足りないものを沢山持っている。俺が出来ないことはなんでも出来る。でも…」
でも…。
「バートだって同じだ」
「……」
「俺に同じことを思っている。マシューに対しても、家族全員に対しても」
「それって?」
「前向きな言葉は理想だ。時々現実味の無いことを言うのは、あいつにも足りないものがあるから。人に言って聞かせるのは、内に留めておけないなにかがあるってこと」
「……」
「皆違って、皆同じだよ。バートも、俺も、マシューも。あいつだけが例外ってわけじゃない。ずっと前から分かってるでしょ」
「……」
「あいつは無敵のスーパーヒーローじゃない。」
前向きなのではない。
彼は特別ではあるが、それは彼一人と言うわけではない。
彼も同じ。
僕と同じ。
「マシュー」
「うん」
「バートに教えたよ。だからあいつは帰ってきたんだ」
今の自分を認めたように。
過去の自分を見つけたように。
未来の自分を信じるように。
そのチャンスをくれた彼を。
「オファーの話。舞台復帰のチャンス」
今度は僕が、知る番なのかも。
「でも分かるだろ?あいつが怯えているの」
「…うん」
「これも分かるだろ?あいつには舞台が一番良いんだって。あいつの役割は役者なんだって」
「うん」
「応援してやって」
「してるよ」
「もっと」
「…」
「マシューには出来るでしょ」
「…なんで?」
ダンケは言った。
どこか諦観したように、自嘲的な笑みを口元に湛えて。
その口の端には、ドーナツの粉砂糖がついていた。
「お前はなんでも出来る」
バートに出来ないことも、俺に出来ないことも。