4くち 7
「本気か、本気なのか日本。これが1ドルで良いのか日本」
「凄く便利だよ。だからウチの食器とか小物とか、粗方"百円均一"のだよ。アメリカにも1ドルショップはあるっちゃあるけど…」
「品揃えが面白過ぎるぜ日本」
「だよねぇ。初めて日本の百円均一に寄った日は、一週間毎日通い詰めて店の全商品を真剣に見て回ったくらい面白かったから。ちなみに増改築する前の当初の店の大きさはだいたいコンビニくらいのサイズで、3374種類の商品が置いてあったよ」
「すっげーユニークな一週間の使い方をしたなお前。イカしてるぜ」
百円均一、今では"百均"ないし百円ショップ"と親しみを込めて呼ばれている店で、二人は食器のコーナーにいた。
店に入るや否や、初めておもちゃ屋に連れてきてもらった少年のように瞳を輝かせて、バートは早歩きであっちの棚とこっちの棚を往復するのを繰り返して、女子供が好みそうなラインストーンやデコレーショングッズに感嘆の溜息を零して見惚れていた。
他にも、りんごカッター、グラスジャー、頭部だけのマネキン、ケーキやハンバーグを再現した消しゴム、と、魅力的で興味を惹くもので溢れていた。バートにとっては100万ドルの夜景よりも価値のある光景だったことは間違いない。
そうして散々動き回るバートに付き合って、二人はようやく食器のコーナーに立っていた。
「マシューはどれを買ったんだ?それを買うよ」
変わらず興味津々な様子で腰を曲げているバートは、洒落た模様が施されたコップの列を前にして、マシューに問いかける。
マシューは訝しげに眉根を寄せた。
「どれでも良いじゃん。好きなものを選べよ」
「同じシリーズを買った方が統一感があって良いだろ?」
分からないでもなかった。
清潔感のあるグラス軍の中に、ポツンと子供向けキャラクターのカップが置かれていたら気になってしまう。
右側の棚の、シンプルな波状の凸凹があるグラスと、左側の棚の、ホーロー風イニシャル入りマグカップと、藤と松が描かれた洒落た和食器と、菊と太陽が描かれた箸を指差した。
バートは指差された通りの商品を手に取り、カゴに丁寧に入れてゆく。和食器にはあまり興味が無いのか、「いるかなぁ」と皿をひっくり返して吟味していたが、マシューに睨まれるとすぐにカゴに入れた。
視線を逸らして誤魔化しながら、バートはまたホーロー風マグカップを手に取った。
黄緑色をしたそれを手の中でくるくる回して、カップの底に「That was delicious!」と書かれているのを見た。そしてイニシャルのVを確認した。
どうやら気に入ったようで、ニコニコしてマシューに顔を向けた。
「このカップ、マイクロウェーブに対応してるかな?」
「日本じゃ電子レンジって言うからレンジって書いてあれば対応してるよ」
「文字も全然読めなくて…。この店で読めるのは英語と漢字じゃない数字だけだ」
「呆れた」と呟いてカップをひったくったマシューは、カップの裏底に張り付けられているバーコード下の説明書きに目を通した。
「対応してるって」
バートの手に返すと、一層嬉しそうな顔で「ありがとう」とお礼が返ってきた。