15くち 13
夕食の卓にはデリバリーのピザやマシューが買ってきた果物や惣菜が並んだ。
家内の生物(三人と二匹)はダイニングルームの一人掛けと二人掛けと三人掛けの三脚のソファの中、わざわざ三人掛けのソファに三人揃って横並びに腰かけたり、床にお座りをしたりして、人気ドラマを大液晶画面で流している。
ダンケは「連続何日目のピザだろう」と既に思い出せなくなっているようだが、味覚障害からなのか、飽きている様子も無く口から離したピザとチーズの綱引きをしていた。
バートはナイフで皮を剥いて小さく切ったリンゴを、膝に乗せているタコのハニーダリーにやり、次に足下で伏せているバーゼルの口元にも運び、自分も時々ピザに手を伸ばす。
水槽から上がってきたばかりのハニーダリーのおかげで、バートの膝はびしょ濡れだ。ソファが濡れないように尻の下にタオルを敷いているものの、その隣に座るダンケは険しい顔をして、マシューをソファから押し出す勢いで遠ざかろうとする。きっと磯臭いからだろう。
当のハニーダリーはバートの胴体に絡みついて、時々口元にやってくる果物を器用に触腕で掴んでいる。
一人と二匹はまるで恋人のように食べ物を分け合っていた。
ハニーダリーは満腹になるとバートにしがみついたまま動かなくなった。
そんなことお構いなしで、バートは濡れた胴体にタコをくっつけたままブドウを皮ごと食べていた。
マシューがそれを話題にすると、「ハニーダリーは四年前に路上で干からびそうになっているところを海に帰してから、海に遊びに行く度に絡みつかれてな。可愛いからフィッシングライセンスを取って連れて帰ってきたんだ」と、バートは答えた。
それからずっと、ひっつき虫ならぬ、ひっつきダコなのだそうだ。
食事を終え、マシューが久しぶりに一人きりで入れる風呂から上がった後までも、バートが水槽に戻すまで、ハニーダリーはしがみついたままだった。
陽と交代して星と月が昇る頃には、マシューには二階の空き部屋が一つ宛がわれた。
バートから「庭掃除をリタイアするならマシューの部屋のセッティングをしてくれ」と言われたダンケが、ヒイヒイ言いながら用意した部屋だった。
外干ししたベッドマットレス。洗い立てのシーツと枕カバーとブランケット。
飾り枕なんて、アメリカにいた頃、両親の寝室で見て以来だ。
部屋に入る前にダンケが「元貴族のベッドメイキングだ」と、恩着せがましい眼差しでマシューを睨みつけていたのが思い出された。
バートの家に到着してからダイニングに置きっ放しだった荷物も、この部屋に運び込まれており、久しぶりに一人きりのプライベートな空間を確保出来たマシューは、床に座り込んで荷ほどきを始めた。