15くち 12
話を区切るように、息を吐いて手入れを終えた庭を見回したバートは、「凄いだろ?俺もよくやっただろ?」と言わんばかりの得意顔でこちらを振り返る。
その顔の通り、来た頃は景観を損なっていた家周りの雑草や砂利は取り払われ、ブラシがかけられたポーチは見違えるほど高級感のあるブラウン色をしていた。
昼頃は廃れ鬱蒼としていた雰囲気が、今、夕方のマシューの目には、ずっと立派に見えていた。
だから、調子にのせない程度の反応でもしてやろうと、マシューは「ほー」と雑な感嘆の声を上げておく。
バートは「次に帰って来た時は、外壁の塗装もやるか。何色にしよっかな」と呟いていた。
更に、「バーゼルのトリミングもしてもらったんだぜ」と言って、熊のような見た目から、もう少し犬らしく見えるようになったバーゼルを撫ぜる。
毛が長いと威圧感があって獰猛そうに見えたが、短毛になった今のバーゼルは、汚れていた毛が真っ白になって、つぶらな瞳もよく見えて、可愛らしく思えた。
バーゼルの前に屈み込むと、お座りをしている超大型犬のバーゼルの方が目線が高くなる。
バーゼルは大人しく眼前のマシューを見ていたが、すぐにバートの方に顔を向けた。
「バーゼルって女の子?」
「男の子だ。日国家の女の子は、マムとベッラとタコのハニーダリーだな」
「男の子か。この厳つい見た目に反して女の子だったりしたら、ギャップで好感度上がるんだけどなあ。尚の事厳つさが増したわ」
「また難しい話をしているなマシュー」
「してないよ。ところで、母親を女の子って呼んで良いものかな…。良い歳した女性を女の子とか女子とか呼ぶのは子供扱いするようなものじゃない?大人女子とかトチ狂った言葉もあるっちゃあるけどさ」
「でも、日本のドラマで三十代設定の女優が自分のことを女の子って言っていたんだけどな…。もしかして、女の子とかその女子とかって、他人が言うと失礼な言葉に当たるのか?」
「あー、そこは女性社会の複雑な事情と言うか、男が心はいつまでも少年のように、女も心は少女のままみたいな…そういう意味で、だから、…大人の女性が自分のことを女子と呼ぶのは、精神年齢の話で、実年齢とは関係が無くてだな…」
「精神年齢が子供って意味か?あのドラマの女性は自分のことを幼稚な女だと卑下していたのか?彼女らはガールじゃなくてレディーのはずだ。もっと自信をもって良いのに」
「ああいや!そうじゃなくて!…えっと、…だから…、子供っぽいって意味じゃなくて、若々しいって言うか…。めぅぅ…分かんないよっ、僕、男だから!知ってた?僕って妹じゃなくて弟だったんだよ!」
バートは楽しそうに笑い声を上げていた。
彼の脛を蹴り、マシューは庭を突っ切って家内へと行ってしまう。脛を蹴った瞬間、お座りしていたバーゼルが立ち上がったが、バートがバーゼルの頭に手を置くと、すぐにまた地面に尻をつけた。
庭に残った一人と一匹は、草刈り釜やバケツなどの道具をかき集め、庭掃除で出たゴミ袋を片付けてから、マシューを追って家内へと向かった。