15くち 11
時差ボケを治す暇も無く、夕方頃に帰宅すると、バートがバーゼルと並んで庭に屈み込んでいた。
どうやら干からびたミミズを発見したようで、それを両手に持ったバートはバーゼルの顔の前に差し出す。
バーゼルはミミズの干物が横たわるバートの掌に興奮した様子で頭を擦りつけ、終いには食べてしまった。
「うわあ…」
思わず漏れ出た声に気付いたらしいバートとバーゼルがこちらを振り向いた。
「おかえり」
「んー…。ミミズあげちゃうの?」
「犬にミミズ、猫にマタタビって言うだろ?ダッドから教わったんだぜ」
「マジで?」
「うん。拾い食いの癖がつかないようにと、上下関係を教え込む為にも手ずからやることにしているんだ。畑をやっているとミミズはよく見るから、干からびるまで磔にするのもお手のものだぜ」
なかなか酷なことをやってみせる。
「ところで、ダン兄は?庭はダン兄の担当でしょ」
「庭掃除を始めて三十分もしたら、もうダメって言って部屋に戻ったから、俺が庭の手入れもしていたんだ。しかも、あいつの自宅学習に使う教本やら、当面の生活用品やらを配達員が続けざまに届けに来てくれたものだから、俺との耳打ちを介して荷物を三回に分けて受け取るのに、だいぶ神経を使って疲れたみたいだ。俺かマシューに受け取らせるつもりで注文したらしいが、注文した本人が在宅なら本人が受け取るべきだから、やらせた」
「はあ、人見知りと引きこもりを極めているね。そんなんであの人大丈夫かな」
「大丈夫だよ。結局は荷物の受け取りもサインも自分で出来たんだから」
「そうだけど。この先、ダン兄は日国家がいなくて生きていけるのかな。お節介だろうけど、僕、ダン兄が心配だ」
「最終的にそうなれたら良い。その為に、一つずつ確実に良くしていくんだ。本人にやる気が少しでもあるなら、成長する為の時間に長いも短いもないのさ。俺はそれに付き合う覚悟があるし、もし上手くいかなかったり、万が一俺が早死にしても、あいつが困らないように使えるコネは用意してある。どう転ぶにせよ、ダンケはもう自分に無責任な生き方をするような奴じゃない。でなきゃ日国を名乗っていないさ。あいつは他人に変えてもらう必要はない。それを認めてやってほしい」
「…そうだね」
胃薬や人口芝生を食べることが責任ある生き方ならそうなのだろう。
「でも、お前みたいに心配をする考え方も必要だ。だからマシューには、このままダンケに安心しないでほしい。俺は楽観的で夢見がちな部分があって、時々見誤るからな。あいつにとっての重要な事柄を、見逃すかもしれない。俺とお前の兼ね合いが、ダンケにはちょうど良いと思うんだ。協力してほしい。…それと、もし上手くいかなくても、あいつを責めないでやってほしいんだ。この先どうなったって、あいつはここまで来れただけ充分よくやってる」
「…分かった」
「お前も、なにかあったら頼れよ。助けてやれるかは分からないけど、でも、助けが必要なら必ず応えるから」
「……」